447話 よし、わかった
「よし、わかった」
突然、始祖竜は冷静になった。
落ち着きを取り戻した様子で、軽く呼吸をする。
「君らの愛が本物だということは、よーーーくわかった」
よかった、納得してくれたみたいだ。
ただ……
どうして納得したのだろう?
俺達は、いつもと変わらない日常を過ごしていただけ。
始祖竜を納得させるだけの『なにか』があったとは思えないのだけど。
「じゃあ、ボク達のことは認めてくれるの?」
「む……」
「呪いもちゃんと解いてくれる?」
「むむ……」
始祖竜が難しい顔に。
俺達の絆は納得した。
しかし、素直に呪いを解きたくない。
自分が正しいはず。
でも、約束は約束。
二つの思いの間で揺れ悩んでいるみたいだ。
「むむむ……」
始祖竜はすごく悩んでいる様子で、ものすごいしかめっ面に。
約束なんだから守ってください。
と言うことは簡単なのだけど……
俺達がそれをやると、話がこじれてしまうかもしれない。
時に、理屈よりも感情が優先されるからな。
そうなると、始祖竜の良心に賭けたいところだけど、果たして……
「ねえねえ」
ふと、メルクリアが声をあげた。
「どうして、パパとママをいじめるの……?」
「え?」
真正面からの質問に、始祖竜がたじろいだ。
それを知ってか知らずか、メルクリアは質問を重ねる。
「パパとママ、悪いことなんてなにもしていないよ? むしろ、良いことをいっぱいしてきたんだよ? 悪い人間や竜をこらしめたり、人助けをしたり……」
「それは……」
「それなのに、なんでパパとママに意地悪するの……?」
「うぐっ」
子供の純粋な疑問。
それ故に心に突き刺さるらしく、始祖竜は胸の辺りを手で押さえた。
「あとあと、パパとママはボクにも優しいんだよ。すっごくすごく優しいの。いつも一緒に遊んでくれるし、優しくなでなでしてくれるし、おいしいご飯をつくってくれるし……あと、怖い夢を見た時は一緒に寝てくれるの!」
「うぅ……」
なぜか、勝手に追い込まれていく始祖竜。
それでも、反撃を試みる。
「え、えっと……君のお父さんとお母さんは、許されないことをしたんだ」
「許されないこと?」
「竜と人間が結ばれるなんて、ありえない。絶対に認められないことだ」
「でも……」
いつもの持論を持ち出す始祖竜に、メルクリアは至極当然の疑問を投げかける。
「なら、なんでボクはここにいるの?」
「え?」
「パパとママが結ばれるのがダメなら、ボク、ここにいないよね? でも、ボク、ここにいるよ? それはなんで?」
「え? あ、いや、それは……」
始祖竜がたじろいだ。
メルクリアが言っていることは、とてもまっすぐな正論で……
純粋な子供が口にしているからこそ、その破壊力は抜群だ。
さすがの始祖竜も反論できない様子で、あたふたと慌てている。
「そ、それは……竜と人間は釣り合わないから……」
「でも、ボクがいるよ?」
「人間のことは嫌いじゃないけど……」
「パパに意地悪してる」
「約束は守らないとダメなんだよ?」
「うぐっ」
その一言は効いたらしく、始祖竜はがくりとうなだれた。
「……ごめんなさい」
ややあって、敗北を認める。
なんということでしょう。
始祖竜をノックアウトしたのは、俺でもユスティーナでもなくて、メルクリアだった。




