45話 三人の夜
その後は他のパーティーと遭遇するというハプニングはなくて……
順調に課題をこなしていき、20ポイントを貯めることに成功した。
そのまま日が暮れて夜になる。
課題は昼夜関係なく行うことができる。
しかし、夜は当たり前のことながら視界が悪い。
他のパーティーが罠をしかけている可能性もあるため、初日の夜はおとなしくすることにした。
「ユスティーナ、水を汲んできたぞ」
「ありがと、アルト。半分は沸かしておいてくれる? 残り半分は、みんなの飲み水だから」
「わかった」
水を二つの容器に分ける。
一つは金属鍋で、このまま火にかければいい。
「グラン、竈は?」
「おう、ちょうどできたところだぜ」
グランは即席の竈を作成していた。
周囲に明かりが漏れにくい場所を選び、石を積み、燃料となる木々を敷いていた。
男性陣はこうして環境を整えて、女性陣は夕飯を作っている。
俺も料理はできなくはないが、さすがに野外の……しかもサバイバル中の料理経験はないため、ユスティーナたちに任せることにした。
即席の竈の上に、水をたっぷりと入れた金属鍋を置いた。
後は火だが……
「アルトさま。私が魔法で火を点けましょうか?」
「いや、大丈夫だ」
アレクシアの申し出はうれしいが、火を点けるくらい、魔法を使わなくてもなんとかなる。
木と木を重ねて、高速で擦り合わせる。
摩擦で焦げ目がついて煙が出てきたところで、細かい枯れ草をあてがう。
枯れ草が燃え上がり、それを釜戸の中へ。
他の木に引火して、あっという間に炎が生まれる。
「……」
「どうしたんだ、ぼーっとして?」
「いえ……アルトさま、すごく手慣れているのですね」
「実家が辺境の田舎で、魔道具のない生活をしていたからな。こういうことは慣れているんだ」
「そうなのですか」
「どうした? じーっと見つめて」
「いえ、その……そういう風に、テキパキと進めてしまうアルトさまも素敵だなあ、と思いまして」
アレクシアは頬を染めて、照れた様子で言う。
そんな反応をされると、俺も照れてしまうのだが……
「こらーっ! アルト、アレクシア! そんなところでサボってないで、自分の仕事をちゃっちゃかする!」
ユスティーナに怒られてしまった。
半分くらいは嫉妬な気がしたが……
作業の手を止めていたことは確かなので、すぐに再開した。
――――――――――
今日の夕飯は、野うさぎの肉を香草で焼いたもの。
それと川魚を木の実と一緒に煮込んだもの。
おまけに野草のサラダ。
サバイバル中とは思えないほど豪華な食事だ。
ユスティーナたち女性陣に改めて感謝しないといけない。
その後は早めに就寝することにした。
夜の活動はなるべく控えて……
朝早くに起きて、早朝から活動するという方針を立てたのだ。
ただ、見張りを立てないわけにはいかない。
2時間毎の交代で、俺は最初の番だ。
ゆらりゆらりと燃える炎を見ながら、夜の空気を肌で感じる。
「アルト」
ユスティーナが洞窟から出てきた。
「どうした? 眠れないのか?」
「ううん、そういうわけじゃないんだ。ただ、アルトとお話したいなあ、って」
ユスティーナが隣に座る。
十分なスペースがあるはずなのに、肩をぴたりとくっつけてきた。
「えへへ」
「どうしてうれしそうにしているんだ?」
「んー……こうしてアルトと外に出て、夜を一緒に過ごして、のんびりする……これって、初めてだよね? だから、なんとなくうれしくて」
「キャンプじゃないんだけどな」
「ちょっとくらい楽しんでも問題ないと思うな。ずっと気を張っていたら疲れちゃうよ。適度に気を緩めないと、いざって時に力が出せないよ」
なるほど、一理ある。
「そういうわけだから、アルトはボクとイチャイチャすること」
「どういうわけなんだ……?」
「たまにはボクの機嫌をとってくれないと。でないと、拗ねちゃうよ? 竜騎士なんだから、騎竜の面倒を見るのも仕事の内だよ」
「俺は正規の竜騎士じゃないが……」
「もう、ああ言えばこう言うんだから。アルトはボクとイチャイチャしたくないの!?」
回答に困る問いかけだ。
ユスティーナは魅力的な女の子だと思うが、付き合ってもいないのにイチャイチャするのは違うと思う。
ならば付き合えばいいのではないか? となるかもしれないが、俺はまだ、情けないことにユスティーナに対する想いが定まっていない。
まずは一人前にならないと、という想いが強く……
正直なところ、恋愛はその後だと考えている。
待たせてしまうのは申し訳ないが、我慢してほしい。
俺が俺であるために、ここを譲ることはできない。
「まあ、こういう方がアルトらしいかな。急に甘えてきたら、それはそれでなんか違う、って思っちゃうかも」
「助かる」
「でも、これくらいはいいよね」
ユスティーナが俺の肩に頭を乗せた。
返事を待っているのだから、その分甘えさせろ。
そんなことを言っているみたいだった。
「アルトさま? エルトセルクさま?」
アレクシアも起きたらしく、洞窟から出てきた。
俺たちを見ると、子供がするように、ちょっとだけ頬を膨らませた。
なんていうか……微妙に気まずい。
「むう……エルトセルクさん、ずるいですわ。このような夜に、アルトさんと二人きりになるなんて」
「あ、あはは……ごめんね。アルトのことが気になって、体が勝手に……」
「そういう時は、私のことも呼んでいただかないと困ります」
ユスティーナに対抗する……
というよりは、自分ひとり仲間外れにしないでほしいという感じで、アレクシアが反対側に座る。
そのままユスティーナと同じように、ぴたりと肩を寄せてきた。
「最初からこうしていれば、なにも問題ありません」
「アレクシアって、けっこう大胆なんだね」
「本当はすごく恥ずかしいです……ですが、体がアルトさまを求めているというか、こうしているとすごく温かい気持ちになることができるので」
「うんうん、わかるなー、それ。アルトと一緒にいると、胸がぽかぽかするよね」
「はい! まるで魔法にかけられたみたいに不思議な気分になって、とても幸せになることができるんです」
「ねー♪」
「はい♪」
少し拗ねていたアレクシアだけど、すぐに笑顔になっていた。
恋のライバルともなれば、苛烈な争いを繰り広げるものだと思っていたが……
この二人の場合は、そのパターンは適用されないのだろうか?
いや、されてほしいわけではないが。
どのようなものであれ、仲良くしてくれる方がうれしい。
「ねえねえ、アルト」
「うん?」
「ムラムラしてこない? ボクたちに手を出したくならない?」
「ごほっ」
不意打ちにとんでもないことを言われて、思わずむせてしまう。
飲み物を飲んでなくてよかった……
「いきなりなにを言う?」
「既成事実を作っちゃうのも一つの手かなー、なんて」
「かわいらしい顔をしてとんでもないことを言わないでくれ……」
「か、かわいい……えへへ、アルトに褒められちゃった」
これくらいで喜ぶのなら、過激なことは言わないでほしい。
「そ、その……アルトさまがお望みでしたら、私としては初めてが野外でも……!」
「望まない。だから、妄想はやめてくれ」
アレクシアは、意外と妄想がたくましいのかもしれない。
「二人共、寝ないでいいのか?」
「寝るよ」
「なら、洞窟に戻って……」
「ボクは、アルトの肩を枕にして寝るよ」
「え? おい、それは……」
「というわけで、おやすみー」
ユスティーナは再び俺の方によりかかり、目を閉じてしまう。
冗談かと思いきや、ほどなくして寝息が聞こえてくる。
寝るの早すぎだろう。
「ホントに寝た……」
「うらやましいです……」
「そうなのか?」
「あっ、いえ、その……私は、えっと……」
「ユスティーナの真似をしたいなら、しても構わないぞ」
「……よろしいのですか?」
「ユスティーナにだけ許して、アレクシアを拒むのは不公平だからな。まあ、ユスティーナは止める間もなく勝手に寝た、という問題はあるが」
「ふふ……では、お言葉に甘えさせてもらい、少しだけ」
アレクシアもこちらに寄りかかってきた。
二人分の温もりを感じる。
たまにはこんな夜があってもいいか。
そんなことを思いながら、俺は二人を支えて、静かな夜を過ごした。
……2時間後、交代でやってきたグランにからかわれたのは言うでもなかった。
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