440話 始祖竜ミドガルズオルム
「え?」
いったい、いつからそこにいたのか?
振り返ると、小さな少女の姿があった。
見た感じからすると、6歳くらいだろうか?
その髪は足元に届くほど長く、金と銀が入り混じったかのような、不思議な色彩を持つ。
子供らしく、というべきなのか……
やたらとフリルのついた服を着ている。
かわいらしいのだけど、やや過剰と言うべきか、着せ替え人形のようだ。
瞳の色は、金と銀。
珍しいオッドアイだ。
「君は……」
尋ねようとして、しかし、それ以上の言葉が続かない。
とてつもない圧を感じて、うまく言葉を紡ぐことができない。
怒り。
なぜか、彼女は怒りを抱いているようだ。
その対象は……俺とユスティーナとメルクリア。
厳しい視線をこちらに向けている。
「愚かな人間と、恥知らずの竜……それと忌み子もいるね」
「忌み子? ……それはもしかして、メルクリアのことか?」
「そうだよ。他に誰がいるの?」
「こ……」
「こいつっ!!!」
俺がキレかけて……
でも先に、ユスティーナがキレた。
自分の娘を忌み子と呼ばれ、怒らない母親なんていない。
ユスティーナは本気で怒りの形相を浮かべて、突撃。
手加減なしの一撃を放つ。
が。
「ぎゃんっ!?」
いったい、なにが起きたのか?
一瞬の交差を経て、ユスティーナがくるくると目を回して倒れていた。
「あうー!」
「待て、ノルン!」
ノルンが続こうとするが、それを制止する。
あのユスティーナを一撃で倒してしまう実力者だ。
ノルンだとしても危ない。
「君は……何者だ?」
「わからない?」
俺を試すような笑みを浮かべている。
この力。
そして、この言動。
俺の考えと勘が正しいのなら……
「始祖竜ミドガルズオルム」
「正解♪」
女の子がにっこりと笑い……
それとほぼ同時に、グレイシアさん達が膝をついて頭を下げた。
彼女はそれほどの存在。
俺の感覚で例えるのなら、目の前にアルモート王がいるようなものだ。
でも、俺は頭なんて下げてやらない。
なにしろ、一連の事件の主犯格がこいつかもしれないのだから。
「よかった。ちょうど、あなたに話を聞きたいと思っていたんだ」
「いいよ。私も、説明をするためにやってきたからね。あ、お茶くれる?」
女の子は勝手に椅子に座り、背もたれに寄りかかる。
主は誰なのか?
私以外にいない。
そんなことを言っているかのような態度だ。
ユスティーナの介抱をノルンとメルクリアに頼み、俺は対面に座る。
「へえ」
「なにか?」
「私のことを知っているみたいなのに、それでも臆さないんだ? ほら、そこの神竜達なんて、さっきからずっと頭を下げているのに」
「普段なら同じことをしていたと思う。でも……今のあなたは敵かもしれない」
あえて『敵』という単語を使った。
それは、俺なりの宣戦布告だ。
彼女がユスティーナに呪いをかけていたとしたら……
真の意味で竜の頂点に立つ存在だろうが、始まりの竜だろうが、絶対に許さない!