437話 すでに時遅く……
「影?」
ユスティーナは、キョトンと小首を傾げた。
そして、後ろを見て自分の影を確認する。
「えっと……影って、どういうこと?」
「実際の影じゃなくて……ユスティーナちゃんの体から、イヤな感じがする、影のようなものがあふれているの」
「えっ!?」
劇的な反応を示したのは、メルクリアだった。
顔を青くして、フレイシアさんに詰め寄る。
「ねえねえ、それは本当!? 本当なの!?」
「え、ええ……間違いないと思うわ」
フレイシアさんは目を擦り、改めてユスティーナを見てから頷いた。
幻覚とかではなくて、フレイシアさんにはハッキリと見えるらしい。
「っ……!」
メルクリアは慌てた様子で、ポケットから小さな宝石を取り出した。
「それは?」
「呪いにかかったかどうか、調べる魔道具だよ」
なるほど。
間に合わなかったとしても、どのタイミングで呪いがかかったか調べる必要がある。
そのための魔道具というわけか。
「これをママに触れさせて、色が変わらなければなにもなし。でも、色が変わったら……」
メルクリアは、恐る恐る宝石をユスティーナに触れさせた。
すると……
淡いブルーの宝石が黒く変色してしまう。
「そんな……」
結果は聞くまでもないだろう。
ユスティーナは呪いにかかった。
「えぇ……?」
そんなバカな、という感じで、ユスティーナはポカンとしていた。
それもそうだ。
昨日までなにもなくて、今朝もなにもない。
それなのに呪いにかかっていたなんて、あまりにも突然すぎる。
実感が湧いてこないのも仕方ないだろう。
ただ、いつまでも呆けているわけにはいかない。
「メルクリア、それは間違いないんだな?」
「た、たぶん……だって、おばあちゃんから託されたものだもん」
「アルマさんから……それなら間違えようはないな」
あの人がこんな大事な局面でミスをするなんてこと、なかなか考えづらい。
そうなると、ユスティーナは本当に呪いにかかってしまったのだろう。
でも、いったいどこで……?
「ねえ、アルト。ボク、心当たりが……」
「ユスティーナちゃんユスティーナちゃんユスティーナちゃん!?」
「わぷっ!?」
「話は聞いていたけど、呪いに!? 呪いにかかったの!? ああ、なんてこと。そんな、なんてこと! 今すぐに治療しましょう、そうしましょう。さあ、行きましょう!!!」
「ちょ、おねえちゃ……」
フレイシアさんはユスティーナを小脇に抱えると、そのまま彼方へ走り去ってしまう。
こちらも、あまりにも突然のことで、ポカンと見送ることしかできない。
「えっと……」
「あうー?」
どうするの? という感じで、ノルンがこちらを見た。
それにつられてか、メルクリアも俺を見る。
そんな目を向けられてもな……
俺もどうしたらいいかわからない。
「ひとまず、学院の竜を借りて二人を追いかけるか」
「パパ、行き先はわかるの?」
「たぶん、家に戻ったんだろう。山の方に駆けていったからな」
フレイシアさんもバカじゃない。
一人で解決しようとせず、まず最初に、アルマさんとグレイシアさんに相談しようと思ったのだろう。
それにしても……
「いったい、いつ呪いをかけられた……?」