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44話 対パーティー戦

 向こうも予想外のことなのだろう。

 先頭を歩く男子生徒を始め、残りの三人もぽかんとしていた。


「っ!」


 先に我に返ったのは俺の方だった。

 背中の訓練用の槍を手に構える。


「グランっ、ジニーっ。アレクシア!」


 グランとジニーが抜剣した。

 アレクシアも己の武器……魔法書を広げる。


 試験が始まり、まだ数時間ほどしか経っていない。

 こんなに早くから他パーティーと交戦する予定は立てていなかったが……

 接敵した以上、どうにかするしかない。


 これだけ近いと逃げることは難しい。

 かといって、交渉材料がまるでない今、話し合いで解決することも難しい。

 向こうもコインを大して持っていないだろうが……

 この際だ。

 もらえるものはもらっておこう。


「い、いくぞっ」


 向こうのリーダーらしき男子生徒も我に返り、剣を抜いた。

 それに続いて、残りの二人も剣を手にして……

 最後の一人は竜の背に乗る。


「くらえっ!」


 男子生徒が地面を蹴り、駆ける勢いを乗せて剣を振り下ろした。

 訓練用の剣とはいえ、直撃すれば打撲か、最悪骨折してしまうかもしれない。

 なので、武器を取り上げてしまうことにした。


 男子生徒の剣は簡単に見切ることができた。

 体を安全な位置に逃がす。

 剣を避けたところで、槍を突き出す。

 そのまま回転させるようにして、剣を絡め取る。


「えっ……あ、あれ!?」


 剣を巻き上げられた男子生徒は、突然のことに驚くように目を白黒させていて……

 隙だらけのその体に一撃を叩き込み、ダウンさせた。


 倒れた男子生徒を心配する声をあげながら、さらに二人、突撃してくる。

 そちらの二人は気にしない。

 なぜなら……


「おっと、ここは俺らが相手だ!」

「アルト君にばかり、良い格好はさせられないからね!」


 グランとジニーが間に合い、二人の相手をする。

 剣と剣が交差して、ギィンと甲高い音が響く。


 グランとジニーは双子ならではの連携を繰り出して、相手を追い込んでいく。

 少し時間はかかるかもしれないが、二人に任せておけば問題はないだろう。


 残りは……


「くっ……! いきなり負けてたまるものですか、薙ぎ払いなさい!」


 竜に乗る女子生徒が相手だ

 まだ飛翔訓練しか習っていないはずなのに、攻撃命令を出していた。

 どうやら、女子生徒は高い騎竜技術を持っているらしい。


「グルァッ!!!」


 竜が応えて、10メートルほど飛び上がり……

 その後に、一気に急降下する。


 あんなものを受け止められるわけがない。

 横に大きく跳んで回避した。


 しかし、敵はそれで諦めるわけがなくて……

 急旋回をして、再び強襲をしかけてくる。


 相手が空にいる以上、こちらが圧倒的に不利だ。

 まずは地面に叩き落さないといけない。


「ユスティーナ!」


 少し離れたところで、のんびりと観戦しているユスティーナに声をかけた。

 事前に話をしていた通り、基本的には手を出さないらしい。


「どうしたの、アルト? 相手は竜だから、ボクの力を借りる?」

「いや、大丈夫だ。なんとかなる。ただ、竜の枷を一時的に解いてくれないか? さすがに、枷がある状態で竜とやりあうのは厳しすぎる」

「さすがアルト。竜相手でも、自分の力でぶつかろうとするところ……すごくかっこいいと思うよ。じゃあ、5分だけ解放しておくね」


 人の耳には聞き取れない言語で、ユスティーナがなにかをつぶやいた。

 それと同時に、俺の胸が……ユスティーナが竜の枷を付加した場所が熱くなる。


 パァン、となにかが弾けるような感覚が広がる。

 すぐに体が軽くなり、今までの何倍の力が出せるようになる。


「これなら……いけるっ!」

「なにをしたかわかりませんが、人が竜に敵うはずがありません!」


 女子生徒の騎竜技術はすばらしいものがあった。

 大抵の生徒は、未だ飛翔訓練をしているのだけど……

 女子生徒は何歩も先をいっている。

 思うように、自由自在に竜を操っていた。

 もしかしたら、彼女がパーティーの要なのかもしれない。


 女子生徒は竜と共に飛び、襲撃を繰り返す。

 体が軽くなっているため、攻撃を避けることはわりと簡単にできた。


 同時に槍を振る。

 しかし、それが当たることはない。


「くっ、ちょこまかと……! しかし、逃げ回っているだけでは勝てませんよっ。そのような攻撃で、私を捉えられると思って!?」


 逃げ回っているわけじゃない。

 その軌道、攻撃パターン、癖……それらを覚えているところだ。


 それらも、ほぼほぼ把握した。

 女子生徒は騎竜の操作に長けているようだが、それでも、正規の竜騎士に比べるとまだまだ拙い。

 単純な移動、攻撃をすることしかできず、すぐに見切ることができた。


「アレクシア!」

「はいっ!」


 再び竜が滑空する体勢に入ったところで、ずっと控えていたアレクシアに合図を出した。


「紅の一撃!」


 アレクシアの魔法が竜の眼前に炸裂した。

 小さな爆発が起きて、竜と女子生徒を飲み込む。

 しかし、大した威力はない。

 速度を落とすだけで終わるが……しかし、それこそが狙いだ。


「なっ!?」


 近くの木を突いて、倒す。

 細いながらも高さのある木は、女子生徒の操る竜を止めるように倒れた。


「どうして、訓練用の槍なんかで木を薙ぎ倒すことが……!? いえっ、そもそも、そんな力があるわけ……まさか、槍を適当に振り回していたわけではなくて、この時のために、何度も傷をつけていた!?」

「正解、と言っておこう」


 直撃は避けられたものの、地上から3メートルほどという絶妙な位置で滞空してしまう。


 もちろん、見逃さない。

 十分に槍の射程内だ。


 天を穿つように、下から上に槍を突き上げる。

 しかし、訓練用の槍で竜の革を貫けるわけがない。

 衝撃に耐えきれず、矛先が砕けた。


 ただ、言い換えれば、矛先が砕けるほどの衝撃を生み出したということ。

 それをまともに受けた竜は……


「グルァッ!?」


 ある程度のダメージを与えることに成功して、竜が失速して地面に不時着した。

 衝撃は波のようなものなので、固い鱗も貫通して内部にダメージを与えることができるのだ。


「うそっ!? 竜にダメージを……しかも、訓練用の武具で……そんな、ありえない!?」

「混乱しているところ悪いが……これで終わりだ」


 矛先が砕けた槍を女子生徒の目の前に突きつけた。

 ほぼ同時に、グランとジニーも二人の生徒を制圧した。


「くっ……降参するわ」


 逡巡の後、女子生徒はがくりとうなだれながら敗北を受け入れた。




――――――――――




 勝負に負けたパーティーは、1時間、戦うことができないというルールだ。

 奪われたポイントを取り返すために、すぐに再試合を求めるのを防ぐため。

 それと、敗北して弱っているところを、さらに他のパーティーに追撃されることを防ぐため。


 その他、細かい観点から、勝負に負けたパーティーは1時間は戦うことができない。

 移動することも禁じられていて、なにか問題がない限りはその場で待機しなければいけない。


 俺たちはその間に場所を移動して、仮拠点の小さな洞窟に戻った。


「これで5ポイントか」


 さっきのパーティーは2ポイント持っていた。

 合計で5ポイント。

 開始数時間で5ポイントは、まずまずの数字じゃないだろうか?


「それにしても、アルトはすげえな」


 さきほどのことを思い返す様子で、グランが言う。


「まさか、竜に乗った相手を倒すなんて……正規の竜騎士でも、そんなヤツいないぞ」

「相手は竜の操作にそれなりに慣れていたが、それでも、拙いところがあったからな。それに、アレクシアも最高のタイミングで援護してくれた。俺一人だと、こうはいかないさ」

「またまた、謙遜しちゃって」

「そうだよ、ジニーの言う通り。アルトは、もっと強気になってもいいと思うな」

「はい。アルトさまだからこそできたことですから。誇らしくしていた方が、とてもよいかと」


 みんなからの称賛がくすぐったい。


「まあ、それは別として……ひとまずは順調なスタートだ。この調子で三日間、がんばろう」

「おーっ!」


 ユスティーナが一番大きな声をあげて、元気よく手を上に突き上げるのだった。

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こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

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