427話 起点はどこに?
「王都に?」
メルクリアの話によると、ユスティーナは王都のどこかで呪いを受けた可能性が高いという。
色々な方法を駆使して、そこまでは突き止めたらしいが……
しかし、それ以上のことは不明。
解呪方法もわかっていない状態らしい。
「この後、ママが行こうとしていた場所とかある?」
「え? うーん……アルトとデートしたいなあ、ってくらいで、特にこれといった目的地はないよ」
「そっかー……大体、この時期。一週間くらいに、ママが呪いを受けるみたいなんだけど」
「他の手がかりは?」
「うぅ……ないです」
頼りになる情報は、今後一週間ということだけ……か。
かなり曖昧な情報だ。
ユスティーナは普通の女の子に見えるけど、実は竜だ。
しかも、頂点に立つ神竜バハムート。
そんな彼女に気づかれずに呪いをかけるなんて、敵は相当な手練と見ていいだろう。
まったくの情報もなしに挑むとなると、かなり厳しい。
「あ、そうだ」
ふと、ジニーが名案を思いついたという顔に。
「これから一週間の間、っていうのなら、一週間、エルトセルクさんにはどこかに隠れてもらえばいいんじゃない?」
「あ、それは良いアイディアですね」
「うーん、難しいかなー?」
俺も良いアイディアだと思ったのだけど、メルクリアが賛同してくれない。
「過去に行く前に、呪いについて色々と調べたんだけど……呪いのかけかたって色々あるんだよね。接触することで発動したり、アイテムを渡したり。あと、高レベルな術者は、念じるだけで発動できるみたい」
「念じるだけか……それは厄介だな」
それなら、ユスティーナが隠れていても仕方ない。
呪いは対象の情報を知らないと、かけることは難しい、という話は俺も知っているが……
ユスティーナはかなりの有名人なので、今更、情報を隠すことは不可能だろう。
「それに、今回は防いだとしても、後々でまた呪いをかけられるかも」
「だとしたら意味はないか」
今回をしのげばいい、という話ではないようだ。
呪いをかけられることを防ぎつつ……
さらに実行犯、関係者の特定を進めて、二度目以降がないようにする。
それがやるべきことだろう。
「……思っていた以上に厄介だな」
ついついそんな弱音がこぼれてしまう。
敵の正体はもとより、目的も不明。
そんな中、ユスティーナを守り……
さらに、敵の企みを潰さなければいけない。
手がかりがなさすぎるというのが問題だ。
なんの特徴も知らされないまま、迷い人を探すのに等しい。
いや。
あるいはそれ以上に難しいかも。
「……パパ……」
難しい顔をしていたら、メルクリアが不安そうな表情に。
どこかすがるような感じで、じっとこちらを見る。
そうだ。
俺が弱気になってどうする。
メルクリアは、ユスティーナを助けるため、単身、過去に跳んできた。
知り合いはいない。
頼れるのは、親である俺達。
それなのに、俺が弱気になっていたら仕方ない。
まだ親であるという実感は湧いてこないけれど……
でも、ユスティーナのため、メルクリアのため。
やれることをやり、絶対に事件を食い止めてみせよう。
「メルクリア」
「うん……」
「安心してくれ」
「わっ」
メルクリアの頭を撫でる。
小さい女の子の頭なんて撫でたことがないから、ちょっと力加減が気になるところだけど……
でも、メルクリアはうれしそうにしてくれた。
「絶対にユスティーナを助けてみせる。だから、心配はいらない」
「……うんっ! パパ、ありがとう!」
メルクリアは満面の笑顔を浮かべてくれた。
それが今回の報酬だろう。