426話 大丈夫
「ぐす……ひっく……」
30分くらいしてメルクリアは泣き止んだ。
最後に鼻をちーんと擤んで、落ち着きを取り戻す。
「うん……もう大丈夫。ごめんね、パパ。取り乱して」
「気にしなくていいさ。すごく大変だっただろうからな」
詳しく話を聞いたら、メルクリアは5歳らしい。
そんな小さな女の子が、母親のために時間さえも超えてみせる。
その行動力と決意はすさまじいと思うが、不安がないわけじゃない。
むしろ、不安しかないだろう。
それを今まで我慢して、ぐっと堪えてきたことはすごい。
「よくがんばったな」
「あ……うんっ!」
メルクリアは涙で目をはらしつつ、しかし、とびっきりの笑顔を見せてくれた。
うん。
だいぶ落ち着いてくれたみたいだ。
「ボク、泣いてなんかいられないの! ママを助けるためにがんばらないと!」
「うぅ……」
とても健気な言葉に、今度はユスティーナの涙腺が崩壊しそうになっていた。
母親という感覚はさすがにないだろうけど、メルクリアが紛れもない自分たちの子供であると、そう実感したのだろう。
とても愛しそうな目を向けて……
「わぷっ」
我慢できなくなった様子で、ユスティーナはメルクリアを抱きしめた。
「がんばったね、がんばったね! うん、すごいよ。ボクなんかより、よっぽどすごいよ。えらいえらい」
「えへへ、ママに褒められちゃった」
「あーもう……この子かわいすぎ! アルト、お持ち帰りしてもいい!?」
「いいんじゃないか」
「あれ!? いいの!?」
断られると思っていたのか、ボケだったのか、ユスティーナが驚いた顔に。
ジニーとアレクシアも驚いていた。
「アルト君、勝手に小さな女の子を寮に住まわせるのはまずいんじゃ?」
「でも未来からやってきたんだから、メルクリアに家なんてないだろ?」
「それは……」
「アルト様は、彼女の話を信じているのですか?」
「ああ。証拠はないけど、でも、魂が感じるんだ。この子は紛れもなく俺達の娘で、嘘なんて言っていない、って」
ただの直感とも言う。
でも、直感というものは、意外とバカにできないものだ。
戦闘でも直感に従い行動することで、命を拾ったこともある。
「なんとか交渉してみせるさ」
「……いいえ、その必要はありません。私が働きかけて、なんとかしておきます」
アレクシアは優しい顔でそう言ってくれた。
「いいのか?」
「はい。確かに、アルト様の言う通りですし……問題があるのなら、交渉して、その問題をなくしてしまえばいいのですから」
「アレクシア、強引ねえ」
「ふふ」
ジニーが呆れるように言い、アレクシアは意味深な笑みを浮かべるのだった。
しかし、次の瞬間には、二人共、厳しい表情に。
「この子が寝泊まりする場所はアレクシアに任せるとして、エルトセルクさんのこと、ちゃんと考えないとダメね」
「この時代にやってきたということは、この時代に、未来のエルトセルクさんを蝕む呪いの起点があるということ。もしかしたら、すでに呪いを受けているかもしれず……迅速な行動が必要となります」
二人の的確な状況分析に、思わず感心してしまう。
「そうだな。早く呪いの起点を探さないといけないが……その前に、ユスティーナ。なにか体に異常は? 呪いを受けているという感覚は?」
「んー?」
ユスティーナは軽く体を動かして、各部を確認する。
「特に違和感はないかな? でも、メルクリアが言う呪いって、未来のボクも発動するまで気づかなかったみたいだし、なんとも言えないかも」
「なら、心当たりは? 敵対している相手とか、逆恨みをしていそうな相手とか」
「それもちょっとわからないかな……」
「だよな……悪い、無理を聞いた」
現状、手がかりはなしか。
どこがデッドラインなのかわからないため、焦りを覚えてしまう。
時間がまったくないとは考えたくないが、のんびりもしていられない。
「ねえねえ。呪いのことなんだけど、ボク、ちょっとした手がかりを持ってきたの」
難しい顔をしていると、そう、メルクリアが言った。