43話 最初の試練
「ねえねえ、アルト」
森の中を進み、1時間ほど経っただろうか?
今回の試験はサバイバルも兼ねているため、拠点となる場所が必要だ。
ひとまず、仮の拠点として川の近くに小さな洞窟を見つけたのだけど……
そのタイミングでユスティーナが口を開く。
「ひょっとしたら予想はしているかもしれないけど、今回の試験、基本的にボクは動かないからね」
「えっ、なんで?」
ジニーが疑問の声をあげた。
それに対して、ユスティーナは当然のように答える。
「ボクが動いたら、それで終わりだからだよ」
ともすれば自信過剰な台詞にとられかねないが……
ユスティーナの場合はそんなことはなくて、それが真実だ。
なにしろ、神竜バハムートだからな。
「課題は戦闘以外にも色々あるみたいだから、なんとも言えないんだけど……でも、他のパーティーからコインを奪うことは可能なんだよね? 自慢っていうわけじゃないんだけど、ボクならほぼ確実にコインを奪うことができるんだよね」
「あー」
ジニーはなにかを察したような顔になる。
しかし、グランはきょとんとしていた。
「なんでそれがダメなんだ? エルトセルクさんがいれば、俺ら、絶対に勝てるじゃねえか」
「アホ兄さん……まったく」
「なんで呆れられているんだ、俺は?」
「いい? エルトセルクさんは、兄さんと違って真面目なのよ。魔物と戦うならともかく、学院の試験でチート使って優勝しても、ぜんぜんうれしくないでしょ。それに、私たちのためにならないわ」
「そういうこと」
ジニーの言葉に、うんうんとユスティーナが賛同する。
「空を飛ばないといけない時とか、他のパーティーが竜と一緒に攻めてきた時とか……そういう時はボクも力を貸すよ。でも、それ以外はダメ。自分たちの力で乗り越えないと。アルトはわかってくれるよね?」
「ああ、もちろんだ」
ユスティーナに甘えているばかりでは、俺たちは成長することができない。
特に俺は、ユスティーナの隣に立ちたいと思っているし……
彼女の力を借りることなく、試験を乗り越えたいと思っている。
そうすることで、また一歩、上に進むことができるはずだ。
「うんうん、さすがアルト! アルトなら、ボクの考えをわかってくれると思っていたよ」
「いざという時は力を借りる、っていうこともどうかと思うけどな」
「それは仕方ないよ。この試験、アルトの決闘も兼ねているんだから。アレクシアのために、絶対に負けるわけにはいかないからね」
いつの間にか、ユスティーナはアレクシアを名前で呼んでいた。
女性同士の友情があるのだろう。
「アルトさま、エルトセルクさま、もうしわけありません……これほどの迷惑をかけてしまい……」
「迷惑じゃない」
アレクシアの言葉を遮り、そう言った。
「そういう言葉はなしだ」
「ですが……」
「俺はアレクシアの力になると決めた。その俺の決意を、このまま貫かせてくれないか?」
「アルトさま……はい、よろしくお願いします」
「あーっ!? こらー、アルトに抱きつくなんてことを許した覚えはないよ!」
アレクシアはうれしそうな顔をしてこちらに抱きついてきて、それを見たユスティーナが猫のように威嚇する。
お前は竜ではないのか?
「はい、そこまで」
ジニーがやや緊張した声で言う。
洞窟の入り口に立ち、その視線は空に向いていた。
「どうやら、そろそろ始まりみたいよ」
ジニーに習い、洞窟の入り口に移動して空を見る。
雲を散らし、巨大な火球が打ち上げられていた。
一定の高さに上昇したところで爆裂して、轟音を響かせる。
試験開始の合図だ。
誰にでもわかるようなもの、と先生は言っていたが……
まさか、あんな派手なものだなんて。
「アルト、アレをやろうよ、アレ」
「アレ?」
「えっと、ほら……これから三日間、みんなでがんばるわけじゃない? だから、気合を入れるというかがんばるぞーって決意するというか、そういう合図のアレ」
「ああ、そういうことか」
なんとなくユスティーナの言いたいことを理解した。
激励というか、そんな感じなのだろう。
「なら……」
俺は前に手を差し出した。
俺の意図を察したユスティーナが、手を重ねる。
グラン、ジニー、アレクシアも手を重ねた。
「テオドールとの決闘に勝つ。それと、せっかくだから成績上位も狙いたい」
「ああ、もちろんだな」
「私たちならやれるわ」
グランとジニーは、たっぷりのやる気をみなぎらせて言う。
「非力ではありますが、みなさんの力になりたいと思います」
「いざという時以外は表に立つつもりはないけど、でも、応援はいっぱいするよ!」
アレクシアとユスティーナもやる気十分だ。
そんなみんなの気持ちをまとめるように、俺は強く、大きく言う。
「がんばろう!」
「「「「おーっ!」」」」
――――――――――
試験は開始されたばかりなので、誰もポイントとなるコインを持っていない。
襲撃する必要もないし、されることもない。
なので、まず最初にするべきことはコインを確保することだ。
課題が配置されている地点を探して、みんなで森の中を散策する。
襲撃されることがないとはいえ、最初から他のパーティーに出会うことは面倒なことになりそうなので、見つからないように慎重に行動した。
「あっ……見つけたよ、アルト!」
ユスティーナが指差す方向に、小さな広場があった。
そこに簡易テントが設置されていて、先生の姿が見えた。
あそこで課題を受けるのだろう。
近づくと先生がこちらに気がついた。
「おっ、最初はお前たちか。課題を受けに来た、ということで問題ないな?」
「はい。課題を教えてくれませんか?」
「ホーンラビットという魔物の角を10本、持ってくることだ。ポイントは3ポイント。どうだ、やるか?」
「もちろん」
「それほど強い魔物ではないが、動きは俊敏で、角があるためそこそこ攻撃力は高い。侮ると大怪我をするぞ? っと、言ってるそばから出たぞ」
茂みがガサガサと鳴り、そこからうさぎを一回り大きくして角をつけたような魔物、ホーンラビットが現れた。
ホーンラビットは俺を獲物と定めたらしい。
こちらを向くと、後ろ足に力を込めて……一気に跳躍をする。
矢が射出されたような勢いで、ホーンラビットが迫る。
このままだと、ホーンラビットの角に串刺しにされてしまうが……
「遅い」
「キィッ!?」
ホーンラビットの角を手で掴み、突撃を止めた。
それを見た先生が目を丸くして、口を大きく開く。
「なっ……!? ホーンラビットの突撃を素手で止めるなんて……ホーンラビットの突撃は、瞬間的にではあるが、視認できないほどの速度が出るというのに……」
竜の枷で鍛えられているおかげか。
はたまた、以前、ジャスと戦うための特訓が活きているのか。
ホーンラビットの突撃は驚異ではない。
角を掴んだまま、ホーンラビットを地面に叩きつけた。
ホーンラビットはそのまま起き上がることはない。
「よし、まずは一本だ」
幸先のいいスタートだ。
「以前の試験でも、急に上位に食い込んでいたが……エステニア、お前、いったいどうしたんだ? その力、まるで正規の竜騎士並じゃないか」
「えっと……がんばると決めたので」
不思議そうな顔をする先生を背に、ホーンラビットを探すべく、俺たちはその場を離れた。
――――――――――
30分後。
無事にホーンラビットの角を10本集めて、課題を達成することができた。
得たポイントは3。
大量得点というわけではないが、貴重なポイントだ。
三日間、きちんと守りたい。
「アルトさま、次はどうされますか?」
「そうだな……」
アレクシアの問いかけに、少しだけ考える。
「……しばらくは課題のある地点を探して、ポイントを稼ぐということでいいんじゃないか? 他のパーティーのポイントを狙ってもいいが、まだ大量に確保しているところはないだろう。最初は地道に行こうと思うが……グランとジニーはどう思う?」
「おう、いいんじゃねえか」
「私も賛成よ」
同意が得られたところで、次の課題を探すために……
「えっ?」
森の中を抜ける道が交わり、そこで他のパーティーと顔を合わせてしまうのだった。
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