423話 ママ
なるほど。
言われてみれば、女の子はユスティーナに似ていた。
彼女の幼い頃を見たことはないが……
きっとこんな姿をしていたんだろうな、と思わせるくらい面影がある。
「えへへー、ママー!」
「うわっ」
女の子は、今度はユスティーナに抱きついた。
そして、俺にしたようにスリスリと甘え始める。
「ママー、ママー」
「えっと、いや、あの……えええぇ?」
大抵のことは落ち着いて、あるいは笑って受け流してしまうユスティーナだけど、さすがにこれは例外らしい。
ひたすらに困惑して、どうしていいかわからないといった様子で硬直していた。
「あ、アルトぉ……?」
最終的に、こちらに助けを求めるような視線を送ってきた。
うん、なんとかしてあげたい。
彼女が困っているのなら力になりたい。
なりたいのだけど……
「これは……ど、どうすれば……?」
「パパ」なんて呼ばれた俺も思い切り動揺してしまい、どうすればいいかわからず、思考が半分くらい停止してしまうのだった。
――――――――――
人目を避けるため、ひとまず寮の部屋へ戻った。
俺、ユスティーナ、ノルン。
ジニーとアレクシア。
そして、俺をパパ、ユスティーナをママと呼ぶ謎の女の子。
その六人でテーブルを囲み、心を落ち着けるためにお茶を飲む。
「……ふぅ」
お茶の香りが心を落ち着かせてくれる。
おかげで、ようやくまともにものを考えられるようになった。
「えっと……ひとまず、自己紹介をしてくれないか? 君は俺達のことを知っているようだけど、俺達は君のことを知らない」
「ぶー、君とか他人行儀な言い方しないでほしいな」
「いや、すまない。ただ、名前がわからないから……」
「それもそっか。ごめんね、パパ。ボクはパパとママのことは知っているけど、今のパパとママはボクのことはまだ知らないか」
うん?
今、色々と引っかかる言い回しがあったのだけど……
いや、質問は後にしよう。
まずは、女の子に自己紹介をしてもらわないと。
「ボクの名前は、メルクリア・エルトセルク! パパとママの娘だよ」
にっこりと笑い、そう言い切った。
ユスティーナが学院に通い始めたことで、エルトセルク姓は多くの人に知られるようになった。
故に、竜の頂点であるエルトセルク姓を騙るバカは、このアルモートにはいない。
そのことを考えると、この子は本当に……
って、考えるまでもないか。
名前とか以前に、その外見はユスティーナにそっくりだ。
ドッペルゲンガーを疑うほどで、ここまで似ているのに赤の他人ということはないだろう。
「ほぼほぼメルクリアの話は信じたんだけど……念の為、竜である証拠を見せてくれないか?」
「もー、パパは慎重なんだから。でも、そんなところもかっこいい♪」
メルクリアは、「んー」という声を響かせて……
ほどなくして、ぽんっ、というかわいらしい音と共に、角と翼が生えた。
「はい、これでどう?」
「ありがとう。魔法で作ったニセモノなんかには見えないし……うん。メルクリアは、本当に竜なんだな」
「あれ? でも、そんな中途半端な形態、ボクでもできないんだけど……」
「ボク、パパとママの娘だから。ほら、二つの血が混じっているの。だから、ボクの竜形態ってこんな感じになったみたい」
「へー、なるほど」
人と竜の混血なんて聞いたことがない。
故に、ユスティーナも今まで知らなかったのだろう。
「もう元に戻っていいよ」
「はいはーい」
再び「んー」という掛け声と共に、メルクリアの角と翼が消えた。
「それで……もしかして、の話になるんだけど、メルクリアは未来からやってきたのか?」