422話 パパ?
「……パパ?」
小さな子供の声だ。
父親を呼んでいるみたいだから、俺には関係ないのだけど……
でも、なんでだろう?
その声は俺に向けられたように感じた。
「パパッ!」
再び声が響いた。
振り返ると、見知らぬ女の子。
6歳くらいだろうか?
まだまだ小さくて、触れたら壊れてしまいそうな儚さを感じる。
髪は長く、腰の辺りまで伸びている。
夜空を写し取ったかのような深い黒。
艷やかで、それでいて絹のようにサラサラだ。
クリクリっとした瞳は赤。
愛らしさに特化したような顔立ちをしていて、出会う人全てを魅了してしまいそうだ。
そんな女の子は……
「やっと見つけた、パパッ!」
俺のことをそう呼んで。
そして、とてもうれしそうにしつつ、抱きついてきた。
「「「パパッ!!!?」」」
ユスティーナを始め、みんなの驚きの声が重なる。
そうやって場が混乱するのだけど、そんなことは気にしないとばかりに、女の子はスリスリと甘えてきた。
「んー、久しぶりのパパの匂いだぁ、パパの感触だぁ。はふぅ、これ好きぃ」
「……」
「えへへー。ねえねえ、パパ。なでなでして? あと、ぎゅってしてほしいなー」
「……」
「あれ? どうしたの、パパ? ぼーっとして。もうっ、ボクの話聞いているの?」
「はっ!?」
あまりに衝撃的な展開に、ついつい意識が飛んでしまっていた。
我に返るものの……
しかし、この状況はどうすれば?
当たり前だけど、女の子に見覚えはない。
パパと呼ばれる理由も、まるで見当がつかない。
いったい、この女の子は……?
「……アールートー……?」
煉獄の底から響いてくるかのような、おどろおどろしい声。
そちらに視線をやると、ユスティーナがキラリと赤い目を光らせて、ゴゴゴとプレッシャーを放っていた。
「あ、アルト君がすでに一児の親に……」
「な、なんていうことでしょうか……」
ジニーとアレクシアも、あわわわ、と混乱していた。
「どういうこと? ねえ、どういうこと?」
「いや、待て。ユスティーナ、これは俺も……」
「この子、アルトのことパパって言っているよね? そうなの? そういうことをしたの?」
「だ、だから、まずは話を……」
「うー……そりゃあね、ボクはアルトを独り占めしたいよ? でも、アルトはすっごくすごいから、独り占めするのもなんだし、妾くらいなら、って思っていたよ? それなのに、ちゃんと話をしてくれないなんて……いつの間にか、子供を作っちゃうなんて……うううぅ、ぐすっ……」
怒りを通り越して、悲しくなってきたらしく、ユスティーナが涙目に。
いけない。
どんなことがあれ、彼女を悲しませるなんて本意じゃない。
「待て、待ってくれ、ユスティーナ。言い訳に聞こえるかもしれないが、この子のことは俺は知らない」
「でも……」
「それに、よく考えてみてくれ。この子は俺をパパと言うが、6歳くらいに見えるだろう? 俺は、15歳だ。この子を4歳と低く見積もっても、色々と計算が合わない」
「あ」
いくらなんでも、12歳で子供を作ることは不可能だ。
その事実に気がついたらしく、ユスティーナが落ち着きを取り戻す。
魂が抜けたような顔をしていたジニーとアレクシアも正気に戻り、揃って小首を傾げる。
「でも、そうだとしたらこの子はいったい?」
「アルトさまによく似たお父さまがいらっしゃるのでしょうか……?」
「んー? パパはパパだよ?」
女の子は、アレクシアの推測を否定した。
そして、視線を横に動かしてユスティーナを捉えると、
「あっ、ママ!」
「「「えっ!!!?」」」
今度はママ!?