42話 決闘の舞台は校外試験
「決闘の舞台は校外試験としようではないか!」
後日……呼び出されて学院の表門へ行くと、すでに待ち構えていたテオドールがそう宣言してきた。
わざわざこんなところで宣言するものだから、周囲の生徒の注目の的になっていた。
いや……もしかして、わざとなのか?
たくさんの生徒の注目を集めることで、引き返せない状況を作る。
そして、必ず約束を履行させようとする。
そこまで考えてのことならば、なかなかに侮れない相手だ。
同じような疑問を抱いたらしく、ユスティーナが問いかける。
「ねえ、君。アルトに宣戦布告するのはいいとして、なんでこんなところで?」
「ふん、しれたこと。僕は目立つのが好きだからだ!」
……特になにも考えていないようだ。
とはいえ、こうして人目を集めて宣言することは効果がある。
天然でやっているのだとしても、なかなかに侮れない相手だ。
「さあ、エステニアよ。どうする? 校外試験を決闘の舞台とすることに異論はないか?」
「待て。話がざっくりとしすぎだ。勝敗をどう決めるのかなど、もう少し具体的に説明してくれ」
「なるほど、言われてみれば説明不足だったかもしれないね。これは失礼をした」
素直か。
「ふむ……では、こういうのはどうだろうか?」
テオドールはしばし考える素振りを見せると、こんな提案をしてきた。
校外試験の詳細はわからないけれど、ポイントを獲得して、その点数に応じて順位がつけられる、ということは判明している。
ならば、その点数で競うのはどうか?
順位はどうあれ、点数の高いパーティーの方が勝ち。
その他、ルールは校外試験の内容に則ること。
詳細が発表された後、ルールの追加、変更はありえる。
「どうかな?」
「そうだな……ああ。今のところ、特に問題はないと思う。それで構わない」
やや曖昧なところが残っているが、校外試験の全てが公表されていないので、そこは仕方ない。
「うむ! この僕を前にして、逃げようとしないその度胸は褒めておこう。しかし、決闘に勝つのはこの僕であり、僕以外にいないと断言しておこう。はははっ、では、当日を楽しみにしているよ」
高笑いを響かせながら、テオドールは立ち去った。
ルールの変更がある場合は、当日よりも前に顔を合わせることになるのだが……
そのことは考えず、その場のノリで口を開いているみたいだな。
「アルト、大丈夫?」
「アルトさま、大丈夫ですか?」
一緒にいるユスティーナとアレクシアが心配そうに声をかけてきた。
問題ないというように笑顔で応える。
「ただ話をしただけだ。特になにかされたわけじゃないからな」
「それがおかしいよねー。あのぼんぼん貴族の弟なら、もっとひどい性格になっていそうなのに」
「テオドールさまは、ちょっと性格に難がありますが、決して悪い方ではないので。兄であるセドリックさまを反面教師にして、今のように成長されたとか」
アレクシアもそこそこ言う方だった。
「でも、それならどうして、アレクシアはテオドールのラブコールを受け止めないの?」
「それは……色々な意味で苦労しそうですし」
ものすごい納得させられた。
「それに、私が好きなのはアルトさまですから。アルトさま以外の男性と付き合うなんて、欠片も考えられません」
「だよねだよね。それくらい、アルトはすごい人でかっこいいよね!」
「はい、とてもかっこいいですわ」
「うんうん。気が合うなあ。アレクシアとなら、一晩中、アルトのことについて語り合えそう!」
「その日、その時を楽しみにしていますわ」
本人を前に、そういう話はやめてほしい。
――――――――――
……そして、校外試験の日が訪れた。
試験会場は学院の外……数時間ほど歩いたところにある森、及び、その奥にある山だ。
広大なフィールドを舞台に、各地にあるチェックポイントで、教師から出される課題をクリアーすればポイントを得ることができる。
課題の内容は様々で、戦闘だけとは限らない。
課題の難易度に応じて、もらえるポイントが変動する。
一度にもらえるポイントは、最低で1。最高で10。
硬貨と同じように、コインで支給される形になる。
また、ポイントを得る方法は課題を達成する以外にもある。
その方法は……他のパーティーから奪い取る。
他のパーティーと遭遇して、力づくでコインを奪うことが許可されている。
試験の期間は、丸々三日間。
その間、全てを自給自足で行わないといけない。
最悪の場合、ギブアップが認められる。
その場合はあらかじめ支給される魔道具を使用することで、教師が救助に向かう。
ただ、もちろん失格となる。
ポイントはいくら稼いでいても全損となり、その場で試験最下位が決定となる。
他にも細かいルールはあるが、基本、こんなところだ。
思っていた以上に大規模で複雑な試験だ。
テオドールとの決闘も同時に行うことになるが……
ルールの変更をする必要は特になさそうだ。
「では……みなさん、事前に通達したように、あらかじめパーティーは決めておきましたね? まずは、パーティーごとに集合してください」
森の入り口に集合して、先生の合図でパーティーを組む。
俺が組む相手は……
「よろしくなっ、アルト!」
「がんばろうね、アルト君」
「未熟者ですが、精一杯、がんばりますね」
グランとジニーと、そしてアレクシア。
計4人だ。
4人で組むように言われているため、ちょうどいい。
俺とアレクシアの本当の関係も説明したため、なおさら都合がいい。
そして……
「えへへ、よろしくね、アルト♪ 外で三日間も一緒に過ごすなんて、ちょっとしたキャンプみたいで楽しそうだね。アレクシアの件がなければ、のんびりしてもよかったかも」
プラス、ユスティーナだ。
ユスティーナは竜扱いなので、パーティーとしてはカウントされない。
一つのパーティーにつき、一匹の竜が同行することになっているが……
その竜にユスティーナが選ばれたわけだ。
「なっ……し、神竜バハムートをパーティーに!?」
こちらの様子を見たテオドールが驚いていた。
まあ、気持ちはわからないでもない。
普通に考えて、チートだからな……
とはいえ、今回はよほどのことがない限りユスティーナに頼るつもりはない。
俺たちだけの力でがんばるつもりだ。
それに……
別々のパーティーにしよう、なんて言おうとしたのだけど、それを察したユスティーナが泣きそうな顔をしたからな。
あれに抗うことはできない。
女の子の泣き顔は最強の武器なのだ。
「ぐっ……まさか、神竜を味方につけるとは」
「やや大人げない気はするが、この決闘、絶対に負けるわけにはいかないからな。まあ、一応、できる限りは俺たちだけの力でがんばるつもりだ。そこは信じてほしい」
「ふむ……まあ、神竜についての決まりは作っていなかったからな。今更、どうこう言うつもりはないさ。仕方ない」
意外とあっさりと諦めて……
って、ちょっと待て。
「おい、お前のパーティーはなんだ?」
「うん? なにかおかしなところが?」
「おもいきりおかしいだろうが! なんだ、そのどこからどう見ても正規の竜騎士にしか見えない三人組は」
テオドールに付き従うように、三人の竜騎士が控えていた。
国から支給される鎧に身を包み、剣、弓、魔法書……それぞれ一流の武具を手にしている。
どこからどう見ても正規の竜騎士以外の何者でもない。
「これはおかしなことを言うな。この人たちは、僕のクラスメイトさ」
「そんなわけがあるか」
「疑うのなら、証拠を見せよう」
テオドールが合図すると、竜騎士の一人が前に出て、懐からなにかを取り出した。
それは……紛れもない、ウチの学院の生徒手帳だった。
よくよく見てみると、入学日が三日前になっている。
き、汚い。
わざわざ試験のために、どこからか正規の竜騎士を調達して、学院に入学させるとは……
竜騎士を入学させてはいけない、なんて決めていなかったから、ルール違反ではない。
違反ではないが……だからといって、普通、こんな真似をするか?
「ウチの学生だろう?」
ドヤ顔で言うテオドールに、若干、イラッときた。
どうやら、テオドールも勝つためにはなんでもやるつもりみたいだ。
こちらにはユスティーナがいるとはいえ、彼女に頼り切りになるわけにはいかないし……
この勝負、なかなか厳しいことになるかもしれない。
「はい、パーティーを組みましたね? では、リーダーとなる人はこちらへ」
先生のところへ行くと、緊急用の魔道具を渡された。
小さな笛の形をしているが、これで特定の魔力波を飛ばして、居場所を知らせることができるらしい。
「ではみなさん、準備はいいですか? 今は10時なので、今から2時間かけて順に森に入ってもらい、好きな位置に待機してもらいます。その後、12時ちょうどに試験を開始します」
いよいよ試験が始まる。
誰かが、ごくりとつばを飲む音が聞こえた。
「では、まずはそこのパーティーから森へ」
最初に指名されたのは俺たちのパーティーだった。
いくらかの緊張と、そして、試験に挑む高揚感を胸に、俺たちは森の中に進むのだった。
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