415話 誘拐?
聞き込みを始めて、30分ほど。
ノルンは特徴のある外見をしているから、ほどなくして情報を得ることができた。
できたのだけど……
「ど、どどど、どうしようアルト!?」
怪しい二人組の男にノルンがついていった、という目撃情報が。
こんな展開になっているとは思わず、ユスティーナはものすごく慌てていた。
「うーん?」
一方、俺はわりと落ち着いていた。
以前にもノルンが誘拐されたことがあるけど……
あの時の敵はプロだ。
魔法と薬を使い、さらにノルンを油断させることで誘拐に成功した。
あの一件を教訓として、ノルンにはしっかりと教育をしておいた。
知らない人についていかない、怪しい人には時に先制攻撃をしてもいい……などなど。
そんなノルンが再び誘拐されたりするだろうか?
しかも、話を聞く限り、相手はただのチンピラ。
見た目は美少女だけど、中身は竜。
しかも、古代竜エンシェントドラゴン。
そんなノルンをどうこうできるとは思えなくて……
なにか違和感を覚えた。
「アルト!?」
「……うん、そうだよな」
なにか裏があるように感じるのだけど、ノルンが誘拐されたことは事実だ。
なら、すぐ助けに行かないと。
「急ごう」
「うん!」
できることならみんなに協力をしてほしいが、これが本当の誘拐の場合、犯人になるべく時間を与えたくない。
近くの憲兵に伝言を頼み、俺達は先行することにした。
ユスティーナと肩を並べるようにして走る。
その速度は風のよう。
色々な相手と戦い、さんざん鍛えられたことで、これくらいは可能になった。
そうしてやってきたのは、再開発地区だ。
古い家屋が建ち並んでいるけど、住んでいる人はいない。
建物が古くなり、また、区画整理を行うために再開発地区に指定された場所だ。
基本、誰も入れないように結界が展開されているのだけど……
「アルト、ここ」
ユスティーナに手招きされると、結界の綻びを見つけることができた。
小さなものだけど、一人ずつなら通れるほどの穴だ。
「……」
その穴を見て、おかしいな? と思う。
ノルンが誘拐されたとしたら、担ぐか抱えるか……どちらにしても大きな荷物になるはずだ。
そんなものを抱えて、この小さな穴を通ることができるだろうか?
ノルンが自主的についていけば問題はない。
でも、そんな風に教育した覚えはないし……
「アルト?」
「あ……いや、なんでもない。行こう」
普通の誘拐事件ではないかもしれないけど……
でも、やっぱりノルンが誘拐された可能性もあるわけで……
今は、とにかくノルンの安全確認が最優先だ。
細かいことを考えるのは後にしよう。
そう決めて、俺とユスティーナは再開発地区へ突入する。
「おー……ボロボロの家がいっぱい」
「全部、取り壊す予定だからな」
「壊しちゃうの?」
「この辺り一帯の区画を整理するのが目的なんだ。で、また新しく建てて整理する」
「なるほど」
「雑談はここまでにして、ノルンを探さないとな」
「そうだけど……」
ユスティーナが、ちょっとうんざりした様子で再開発地区を見る。
気持ちはわかる。
ぱっと見ただけで、廃屋が100軒以上。
これのどこに潜んでいるかわからない犯人とノルンを探すのは容易ではない。
さて、どうしたものか?