413話 ナンパ?
「あうー……!」
一足先に教室を後にしたノルンは、一人で街を歩いていた。
歩き方は荒く。
私は怒っています、とアピールするかのように頬を膨らませている。
実際、ノルンは怒っていた。
「うー……!」
最近のアルトとユスティーナは、まるで自分をかまってくれない。
二人でイチャイチャしてばかりだ。
恋人? というのはよくわからないが……
以前よりも二人が仲良くなったことは喜ばしいことだ。
そこは、素直にうれしいと思う。
しかし、しかしだ。
まるでかまってくれないのはいかがなものか?
こっそりアルトと一緒に寝ただけで、怒られるのはいかがなものか?
「あううう……!」
ノルンは怒っているのだけど……
ただ、それは子供の癇癪のようなものだった。
大人なら、そういうものか、で納得できる。
とはいえ、ノルンは子供と変わらない。
見た目はアルトと同じだけど、その心は幼い。
故に、ノルンを責めるのは、なかなかに難しい。
「うー、あうー……!」
ノルンは怒っていた。
どうにかして、この怒りをアルトとユスティーナに伝えたい。
別に二人を困らせるつもりはない。
ただ、待遇改善を要求したいのだ。
さて、どうしたものか?
「お嬢ちゃん」
「あう?」
考えつつ歩いていると、ふと、声をかけられた。
振り返ると、二人組の男がいた。
歳は……わからない。
黒いサングラスとマスク、帽子を被っているため、顔の特徴がまったくつかめないのだ。
それでも、体型を見ると若い男であることは想像できた。
「ちょっと道を聞きたいんだけど、いいかな?」
「あう」
ノルンは頷いた。
怒っている最中ではあるが、それはそれ。
困っている人がいるのなら助けよう。
そう教えられてきた。
「ここなんだけど……」
「あうー」
地図を見せられて、ノルンはジェスチャー混じりで行き先を教える。
ノルンがしゃべれないということに気づいているのか、男たちは特になにも反応を示さない。
ただ、じっと粘つくような視線でノルンを見ていた。
「あう」
わかった? というような感じで、ノルンは声を出した。
「そっか、そっか。ここにあるんだね、ありがとう」
「おかげで、無事に目的地に辿り着けそうだ。
「あうー」
どうやら役目を果たせたらしい。
ノルンはうれしくなる。
「ありがとう、お嬢ちゃん。お礼といってはなんだけど、おいしいものを食べにいかないかい?」
「お金のことなら大丈夫。俺たちが奢るからさ」
「あうー?」
ノルンは小首を傾げた。
これはナンパというやつだろうか?
いや、それにしては、男たちはとても嫌な感じがする。
ナンパを通り越して、犯罪に手を染めようとしているような……
「……あう!」
ふと、ノルンは閃いた。