411話 あう? あうー!
「うー……」
最近、ノルンは不満を抱えるようになっていた。
その不満の原因は……
ユスティーナだ。
「アールート♪」
「うわっ」
寮の部屋。
ノルンがいることを忘れた様子で、ユスティーナがアルトに抱きついた。
時間は夜。
そろそろ寝る時間なのだけど、二人はまだベッドに入る様子はない。
「ねえねえ、アルト。夜の遊びをしない?」
「……そんな言葉、どこで覚えてきたんだ?」
「クラスの女の子。男の子を落としたいなら、抱きついて、耳元でこうささやけばイチコロだよ、って」
「なんてことを教えているんだ、ウチのクラスの女子は……」
倫理観。
というよりは羞恥心が欠如したクラスメイトの言動に、アルトはため息をこぼす。
「ねーねー、夜の遊びをしよ? 夜の運動でもいいよ、えへへ」
「ユスティーナ、その言い方はおじさんくさいぞ……」
「えっ!? そ、それはちょっと……」
「ほら、馬鹿をやっていないで寝よう。もう夜も遅い」
「はーい。あ、そうだ。一緒に寝てもいい?」
「あのな……」
俺の話を聞いていたのか? という様子でアルトは呆れるが、ユスティーナは止まらない。
恋する乙女……しかも、恋人になってあまり時間が経っていないため、いつでもどこでも全力直球なのだ。
「ボク、アルトと一緒に寝たいな」
「……ベッドが小さいだろう」
「いいよ。ぎゅーって抱き合うようにして寝よう?」
「そんなこと、できるわけないだろう」
「どうして?」
「それは……」
「ふっふっふ、アルト、なにを考えたのかなー? きゃー、えっち!」
からかう彼女に呆れたのか疲れたのか、アルトは再びため息をこぼす。
「でも……」
ユスティーナは頬を染めて、わずかに瞳を潤ませてアルトを見る。
「ボクは……そういうことになっても、ぜんぜんいいよ?」
「っ!?」
「え、えへへ」
「……」
なんともいえない甘酸っぱい空気が流れた。
そして……
二人に忘れ去られ、その空気に晒されたノルンは、
「あううううう……」
不満たっぷり。
爆発寸前だった。
学校へ行くと、アルトとユスティーナがイチャイチャ。
家に帰ると、やはりアルトとユスティーナがイチャイチャ。
どこへ行っても二人のイチャイチャを見せつけられるのだ。
しかも、同じ部屋のため、こうして寝る直前まで見せつけられる。
ついでに言うと、朝起きて最初に目にするのも二人のイチャイチャだ。
ノルンはアルトのことが好きだ。
ユスティーナのことも好きだ。
ただ、それとこれとは別。
大好きな人であろうと、近くでずっとイチャイチャされると、イラッとくる。
それはもう、イラッとくる。
最初は、二人が仲良くなってうれしい! と喜んでいたノルンだけど……
今ではジト目になり、睨みつけるほどにやさぐれていた。
「ほら、おとなしく寝てくれ」
「ちぇ、仕方ないなー」
「おやすみ」
「……ねえねえ、アルト」
「うん?」
「おやすみのキス、してほしいなー?」
ユスティーナは甘えるような声を出して、アルトに寄り添い……
ぷつん。
それを見て、ノルンの堪忍袋の尾が切れた。
「あーうううううううーーーーーっ!!!!!」
……その夜。
寮の一室で大爆発が起きたとか。