410話 そして翌日
翌日の放課後。
テオドールは中庭にクラリッサ先輩を呼び出した。
その様子を、俺達は少し離れたところから見守る。
これから、改めてテオドールはクラリッサ先輩に告白をする。
本来なら二人きりにすべきなのだけど……
どうしても見守りたく、こっそりと様子を見ていた。
「アルトも俺らに染まってきたな」
「ちょっと、兄さん。アルトくんをバカみたいに言わないでよ」
「俺がバカってことか!?」
「二人とも、しー!」
ユスティーナに注意されて、グランとジニーは口を閉じた。
それから改めて、テオドールとクラリッサを見る。
「……どうしたの? なにか、大事な話があるって聞いているけど、私達はもう……」
「なにも終わってなんていないさ」
「えっ」
真正面から否定されるとは思っていなかったらしく、クラリッサ先輩がやや押される。
それを好機と見たのか、テオドールはクラリッサ先輩の手を掴んだ。
そして顔をぐいっとやり、熱い口調で言葉を投げかける。
「改めて告白させてもらうよ。僕は、クラリッサのことが好きだ。愛している」
「あ……」
「先日の話はなかったことにして、僕と交際を続けてくれないかい?」
「で、でも……」
「大丈夫」
今度は、テオドールはクラリッサ先輩を抱きしめた。
ガラス細工を扱うかのように、優しく優しく抱きしめる。
そうすることで、テオドールの優しい心を感じたのだろう。
クラリッサ先輩は彼を突き放すことができない様子で、抱きしめられるままだ。
「君とその友達を脅かす存在は排除された」
「え?」
「ハインズ・エードリヒは、クラリッサ達に手を出すことはない」
「どうして、そのことを……」
驚くクラリッサ先輩を、テオドールはもう一度抱きしめた。
「水臭いと思わないでもないが……でも、もう心配はいらない。クラリッサ達の平穏を脅かす者はいない」
「それは……」
「なにかあれば頼ってほしい。僕に君を守らせる栄誉を与えてほしい」
そこでテオドールは膝をついて、クラリッサ先輩の手を取る。
物語にあるような、姫に忠誠を捧げる騎士のようだ。
キザな行為ではあるが、テオドールがやると、とても絵になる。
「でも私は、あなたを危険に巻き込むなんて……」
「そのようなこと、気にしないでほしい。君のために盾となれるのなら、本望だよ」
「そんな! あなたが傷ついて、私が平静でいられると思うの!?」
「それなら、君が傷つき涙することで、僕が平静でいられないことも覚えてほしい」
「あ……」
クラリッサ先輩がテオドールと別れようとしたのは、彼を思えばこそだ。
しかし、それはそれでテオドールを傷つけてしまう。
今になって、ようやくそのことに気づいたのだろう。
クラリッサ先輩の瞳に後悔の色が浮かぶ。
しかし、テオドールはそれを責めることはいない。
優しく微笑むだけだ。
「楽しいことがあれば、一緒に笑おう。危険なことがあれば、一緒に戦おう。僕は、どんな時もクラリッサと一緒にいたい」
「……テオドール……」
「どうか、僕に君を守る名誉を与えてほしい」
もう一度、同じ言葉を繰り返して、テオドールはクラリッサ先輩の瞳をまっすぐに見つめた。
クラリッサ先輩は涙をにじませて……
そっと、テオドールに向けて手を差し出す。
テオドールはクラリッサ先輩の手を取り、その甲にそっと口づけをする。
「君と一緒にいることを誓うよ」
「ええ……ええ……私も、テオドールをずっと愛することを誓うわ」
さながら結婚式のように、二人は愛を交わして……
「「「ひゃーーー!!!」」」
様子を見ていた女性陣は、感情を爆発させて、黄色い声をあげた。
色々と台無しになってしまうのだけど、それはそれでいいとテオドールとクラリッサ先輩が笑い……うん。
なにはともあれ、一件落着だ。




