406話 どうするべきか?
このままだと、クラリッサ先輩がどこかの貴族に刃を向けてしまう。
貴族に非があれば、情状酌量の余地は認められるが……
話を聞く限り、悪知恵の回る貴族なのだろう。
そんな事件が起きた場合、自らを被害者として、クラリッサ先輩を加害者とする。
過失の割合は、10:0にして、とことん責任を追求するだろう。
待っているのは……破滅だ。
そんな事態は見過ごせない。
クラリッサ先輩と知り合って短いが、しかし、テオドールの大事な人だ。
親友の恋人のために力を貸さず、いつ立ち上がるというのか?
そうして、俺達は一致団結して事件に挑むことになったのだけど……
「まいったな」
一日経ったのだけど、あまり事態は進展していない。
クラリッサ先輩の暴走を止めるには、二つの選択がある。
一つは、彼女を物理的に拘束してしまうこと。
やや乱暴ではあるが、それなら確実にクラリッサ先輩の暴走を止めることができる。
しかし、事件の根本的な解決にはならない。
クラリッサ先輩を強引に止めたとしても、その友達は貴族の毒牙にかかり、修復できない亀裂を残すだろう。
もう一つは、事件を引き起こしている貴族を突き止めて、どうにかすること。
これが一番の最善策ではあるのだけど……
問題は、どこの誰かということがわからない。
クラリッサ先輩から話を聞けばいいのかもしれないが、素直に話してくれるかどうか。
友達のために自分の手を汚すことを覚悟するくらいだ。
俺達を巻き込むまいと、絶対に話してくれないだろう。
ならば自分達で突き止めるしかないのだけど……
「なかなかうまくいかないな」
テオドールやアレクシアのコネ。
そして、ユスティーナの竜の情報。
色々なものを頼りに情報収集してみたものの、今のところ、コレといって有力な情報にたどり着いていない。
どうにかしなければいけないのだけど……
それをじっくりと考える時間もない。
気がつけば、クラリッサ先輩が行動を起こしていた、なんてこともありえる。
さて、どうしたものか?
「ボクに任せて!」
みんなで頭を悩ませていると、ふと、ユスティーナが口を開いた。
名案を思いついた、というような顔をしているのだけど……
大丈夫だろうか?
失礼ながら不安になる。
「なにか案が?」
「ボクたちは、敵が誰かわからない。クラリッサとその友達だけが知っている。でも、二人は話してくれそうにない。ここまではいい?」
「ああ」
「で、ボク考えたんだ。クラリッサとその友達しか知らないなら、クラリッサに案内してもらえばいいんじゃないかなー、って」
「だから、それは……いや、待てよ」
ユスティーナの言いたいことを、なんとなくだけど理解した。
ただ、他のみんなはまだ理解していないらしく、不思議そうな顔をしている。
「もしかして……クラリッサ先輩が行動を起こすまで放置して、後をつける……のか?」
「アルト、正解。ボクたち、心が通じ合っているね」
ユスティーナがうれしそうに笑う。
「確かに、それなら確実に敵の正体を突き止めることができるのであります」
「クラリッサ先輩を怒らせちゃうかもしれないけど……まあ、最悪の事態を考えると、そうなるよりはマシよね」
「……一つ、問題がある」
テオドールが難しい顔をして言う。
「彼女は、真正面から乗り込むわけじゃない。たぶん、闇討ちかなにか、少しでも成功する確率が高い手を使うはずだ。その場合、どこからどう見ても、彼女が悪となる。それに加担したとなれば、僕らも罪は免れない」
「うん、そうだね」
「クラリッサのためならば、どうなろうと構わないが……しかし、彼女を泣かせたり怒らせたり、心配をかけるのは本意ではないんだ。それは、あまりに強引な方法ではないかい?」
「ふっふっふー」
甘い、甘すぎる。
そんなことを言いたそうな顔をして、ユスティーナは指をちっちっちと横に振る。
「その点も抜かりないよ」
「ふむ?」
「要するに、ボクたちもクラリッサも罪を追求されなければ良いんだよね? それでもって、相手の罪を暴くことができればいい。そして、それはその場ですぐに証明する必要はない」
こそこそと、ユスティーナが小さな声で話す。
第三者に聞かれる心配はないのだけど、そこは雰囲気というやつだろう。
「な、なんて過激な……」
「にひひ」
「でも、それならうまくいくかもしれないな」