405話 見えてきた裏側
放課後、今は使われていない教室に集合した。
話の内容が内容なので、誰にも聞かれたくないと判断したためだ。
「話を仕切らせてもらうが……まず、テオドールとアレクシアはどうだった? なにか気になる情報はあったか?」
「そうだね……きな臭い話はいくつか聞いたものの、クラリッサに関係するかどうか、それはわからないね」
「恥ずかしい話ですが、貴族は黒いところが多く隠されているので……」
「クラリッサに繋がる情報を精査するとなると、もう少し時間が欲しいところだね」
「なるほど……うん、了解だ」
俺の考えが正しいのなら、二人はすぐに必要な情報を見つけてくれるだろう。
ただ、その前にジニーとグランの話も聞いておきたい。
今、抱いているとある予想が正しいということを、補足するような話を聞きたい。
「ジニーとグランは?」
「こっちは大したことはないわね」
「ちょっと品が多く動いているくらいか?」
「たぶん、どこかの貴族が、近々、パーティーかなにかを開催するんだと思う。それで、色々な品が動いているの」
「なるほど」
俺の推測を裏付ける話だ。
これも貴重な情報だ。
「ユスティーナとノルンは?」
「んー……色々と聞いてみたけど、竜は関係してないっぽいかな」
「あうあう」
「元々、バカなことをする竜なんてほとんどいないし、人間に興味を持つ竜も少ないからね」
「そうなると、だいたい、絞り込むことができたかな?」
中庭で聞いた話。
そして、みんなから得た情報。
それらをまとめると、一つの答えが導き出される。
「アルト、キミはなにか掴んだのかい? そうなら、教えてくれないか? クラリッサは、いったい、どんな問題に直面しているんだ?」
「まだ確証は得ていないが……でも、今、話しておくべきだろうな」
もったいぶって話を伏せておいて、気がついたら手遅れ、なんて話はよくあることだ。
「昼休み、クラリッサ先輩は友達と一緒にいたんだけど……」
俺とククルが見たことをみんなに話した。
「根本的な問題は、その友達にあると思う」
「えっ、クラリッサの友達が黒幕!?」
「違う違う」
ユスティーナは、どうしてこう、直情的な思考に至るのだろうか?
隣で、やれやれという感じで、ノルンがため息をこぼしていた。
「本当の黒幕は別にいる。それが誰か、今はわからないが……たぶん、クラリッサ先輩の友達を脅しているんだろう」
「脅す……?」
穏やかではない話に、みんなの表情が険しくなる。
「断っても、言う通りにするしかない、相手は貴族……なんて言葉が聞こえてきたから、たぶん、どこかの貴族がクラリッサ先輩の友達に言い寄っているんだろう。断れば家の力で圧力をかける、というような感じで、脅しているんだろう」
「「「最悪」」」
女性陣がぴたりと口を揃えて言い、嫌悪感をあらわにした。
同じ女性だからこそ、クラリッサ先輩の友達に同情しているのだろう。
そして、その敵に怒りを抱いているのだろう。
「まだ確証はないからな?」
「しかし、アルト殿は、ほぼほぼ確信しているのですね?」
「まあ、な」
アルモートは治安の良い国ではあるが……
こういった黒い部分も多々ある。
王は腐った部分を排除しようとがんばっているものの、こればかりはどうしようもない。
人が人である限り、欲望は尽きない。
こういう事件は起きるだろう。
でも。
だからこそ、同じ人がなんとかしなければいけないと思うのだ。
「クラリッサ先輩は、友達から事件についての相談を受けていた。そして、放っておくわけにはいかず、事件を解決する決意をした。故に、テオドールに別れを切り出した」
「どういうこと???」
ユスティーナは小首を傾げていたが……
テオドールは、今の言葉で全てを理解したらしく、「なんてことだ」とうめきつつ、額に手をやる。
「どういうことなのですか?」
「おそらく、だが……」
俺と同じように、推論であることを強調しつつ、テオドールが言う。
「クラリッサは、友達のために、なんでもする決意を固めたんだと思う」
「なんでも……?」
「おそらく、物理的に友達に言い寄る貴族を排除しようと決めた」
「なっ……!?」
「そんなことをしたら、どのような理由があれ、許されない。僕と一緒にいれば、迷惑をかけてしまう。だから……別れると言い出したのだろうね」
テオドールは、悔しそうな寂しそうな、そんな複雑な表情をして、そう言った。




