404話 決意を
翌日。
さっそく、クラリッサ先輩のことを調べてみることにした。
テオドールやアレクシアは、その伝手を使ってもらい、貴族が関わっていないかどうか調べてもらうことに。
グランとジニーは、同じ感じで、商人のネットワークを使ってもらい、情報収集を頼んだ。
ユスティーナとノルンは、念の為に竜が関係していないか調べてもらい……
残った俺とククルは、直接、クラリッサ先輩の様子を確認することにした。
「……いたであります」
昼休み。
クラリッサ先輩の姿を探して学院内を散策すると、中庭で足を止めた。
物陰に隠れつつ、そっと覗いてみるとクラリッサ先輩がいた。
彼女一人じゃない。
友達だろうか?
もう一人、女子生徒がいる。
二人は一緒に弁当を食べているのだけど……
楽しくという雰囲気とは程遠い。
暗い顔をしていて、箸がぜんぜん進んでいない。
「どうしたのでありましょう?」
「ケンカをしているのか?」
「ふむ? それなら、一緒にいる理由がわからないのでありますが……」
「それもそうか」
遠くから様子を見ているだけだと、なにもわからない。
見つかるリスクを覚悟で、もう少し近づいてみよう。
「それならばお任せください」
ククルは自慢そうな顔をすると、なにやら魔法を唱えた。
聞き覚えのない詠唱で、アルモートには存在しない、フィリアだけの魔法なのだろう。
魔法が発動すると、淡い光が俺とククルを包み込む。
すると、その体がうっすらと半透明になった。
「これは……?」
「魔法迷彩、及び認識阻害であります。潜入任務などに使われる魔法で、こちらからなにかしない限り、向こうに気づかれることはありません」
「とんでもない魔法だな」
そんな魔法をぽんぽんと使っていいのか、気になるものの……
ひとまず、今は厚意に甘えさせてもらう。
音などは普通に出てしまうらしいから、足音に気をつけて、そっと二人の背後に回る。
そうやって会話が聞こえるところまで近づいたところで、クラリッサ先輩とその友達の会話に耳を傾けた。
盗み聞き以外の何物でもないので、少し心苦しいのだけど……
でも、親友のためだ。
あえて悪いこともしてみせよう。
「……そう。やはり、向こうは引いてくれないのね?」
「うん……もう何度も断っているのに、まるで私の話を聞いてくれなくて。ううん、話を聞かないだけならまだいいの。これ以上恥をかかせるのなら、こちらも手段を選ばないぞ……って」
「それは、遠回しな脅迫よね? しかるべきところに訴え出れば……」
「無理だよ。前にも話したけど、相手は上級貴族。そして、私は平民。そんなことをしても、訴えは握りつぶされるだろうし、逆に相手の怒りを買うだけだよ……」
「そう、ね……」
二人の話を聞いて、思わずククルと顔を見合わせてしまう。
どんな話をしているか、まだ詳しいことはわからない。
でも、とてもきな臭い感じだ。
「もう、どうしようもないから……私、あいつの言う通りにするね」
「ダメよ! そんなことをしたら……」
「でも……どうしようもないよね?」
「……」
「ありがとう、クラリッサ。私がどんなことになっても……友達でいてくれるとうれしいな」
「……大丈夫」
クラリッサ先輩が女子生徒を抱きしめた。
女子生徒は突然のことに驚いているようだけど、クラリッサ先輩は彼女を離さない。
「全部、私がなんとかしてみせるわ」
「クラリッサ?」
「大丈夫……絶対に大丈夫よ」
そう語るクラリッサ先輩は、なにか強い決意を瞳に宿していた。
なにを考えているのか?
それはわからないが……
ともすれば、そのまま破滅してしまいそうな危うさを感じる。
「……アルト殿」
「……ああ」
ひとまず、ここまでだ。
この情報をみんなで共有して、もう一度、話し合おう。
そう決めて、俺とククルは中庭を後にした。




