403話 ひとまず事情を
生きる屍のようになってしまっているテオドールを連れて、食堂へ。
ひとまず注文を済ませて、みんなで席を囲む。
ちなみに、ジニーとアレクシアとククルも呼んでおいた。
一人でも多い方が助けになるだろう、と考えてのことだ。
「いったいどうしたんだ? 俺の目には、テオドールとクラリッサ先輩は、とても仲が良いように見えたが」
「うんうん、すごく順調っぽかったよねー。ダブルデートの時も、ボクたちに負けず劣らず、仲良くしていたし」
ユスティーナの感想に同意するように俺は頷いて、
「へー、ダブルデートね……」
「いつの間にやら、そのようなことをしていたのですね……」
ジニーとアレクシアのジト目がこちらに。
少し心が痛い。
いや、しかしやましいことをしているわけでは……
しかし、二人の気持ちを知っているのに……
「アルト?」
「……いや、なんでもない」
俺の問題は後回し。
今は、テオドールの話を聞かないと。
「それで、どうしたんだ? こんなことを聞くのは決して興味本位じゃなくて、テオドールの力になりたいからなんだが……いったい、なにがあったんだ?」
「……ありがとう」
朝からずっと暗い顔をしていたテオドールだけど、やっと笑ってくれた。
それから気持ちを取り直すように、ごはんを食べて……
そうして少し腹を満たしたところで、口を開く。
「……昨日の夜のことだ。突然、クラリッサが僕の部屋を訪ねてきてね」
「「「おー」」」
なにを想像したのか、女性陣が期待に瞳をキラキラとさせた。
「幸いというべきか、相部屋の寮生は席を外していた。僕は彼女を部屋に招いて、ゆっくりとした時間を過ごそうと思っていたのだが……そこで、気づいたのだよ。彼女がとても硬い顔をしていることに」
その後……
テオドールは、唐突にクラリッサ先輩に別れを切り出されたらしい。
その理由は?
決定を覆すことはできないのか?
なにかが障害となっているのなら、全力で排除することを誓う。
テオドールはありとあらゆる言葉を並べて、クラリッサ先輩の心を変えようとしたが……
しかし、それは叶わなかった。
テオドールの言葉を聞くことなく、クラリッサ先輩は部屋を後にしてしまったという。
「……以上が、昨日起きたことさ」
「ふむ?」
おかしな話だ。
俺は恋愛に詳しくないが……
普通、別れる時は理由などを話すものではないか?
あなたのここが悪いとか、他に好きな人ができたとか。
それを口にしないということは妙に思えた。
クラリッサ先輩は、別れることに理由を求めないほど、適当な気持ちでテオドールと付き合っていたのか?
それとも、言葉にできない複雑な事情があるのか?
この二つで判断するのなら後者だ。
それほど深い付き合いではないが、クラリッサ先輩が前者のような行動をとる人とは、どうしても思えない。
「うーん、なにか理由があったんじゃないかな?」
「うんうん、あたしもそう思うわ」
「交際を続けられない理由があって、それを口にすることは、テオドール殿に迷惑をかけてしまう……と考えると、納得できるのであります」
「あうあう!」
女性陣も俺と同じ意見らしく、口々にそんなことを言う。
「言われてみれば……」
今初めて気がついた、というような感じで、テオドールは驚きに目を大きくした。
「おいおい、それくらい気づいてやれよ」
「兄さんは、そんなこと言える立場にないでしょ。テオドールは、まともにものを考えられないくらいショックだったんだから」
「あー……それもそうだな。すまん。考えなしだった」
「いや、気にしないでくれ」
ただふられたわけではないかもしれない、という可能性に思い至り、テオドールは少し元気を取り戻した様子だ。
「クラリッサは、僕と交際を続けることができない理由があった? そう考えると、確かに……しかし、それはどんなものなのだろう?」
「こういう場合のパターンだと、親が勝手に婚約者を決めたとか、そういう感じかな?」
「エルトセルク殿の言うことはありえそうですが……その辺りは、どうなのでありますか? クラリッサ殿のご両親は、そういうことをする方なのですか?」
「……すまない、それはわからないな。彼女の両親に挨拶はしようと思っていたが、それはまだ先を考えていたんだよ」
それもそうだ。
付き合い始めたばかりなのに、いきなり両親に挨拶をする方が珍しい。
「なにか理由があるんじゃないか? それを確かめる前に諦めてしまうのは、どうかと思う。俺たちにできることがあるなら協力するから、もう少しあがいてみないか?」
「……ありがとう。アルトたちの協力があれば……いや。僕の魅力と想いで、クラリッサの心を再び射止めてみせるよ」
テオドールはようやくいつもの調子に戻り、元気に笑うのだった。