401話 影
今日は楽しかった。
クラリッサは笑みを浮かべつつ、自室のベッドに仰向けに寝る。
初めてできた彼氏。
その彼氏の友達と一緒にダブルデート。
本音を言うのならば、テオドールと二人きりがよかったものの……
自分を楽しませるために、彼なりに考えてくれた結果だ。
文句を言うつもりはない。
それに、実際に楽しかった。
デートというほどの色気はなかったものの、親友と一緒に過ごしているような感覚で、気楽に自然体でいることができた。
機会があれば、またアルトとユスティーナとダブルデートをしてみたいと思う。
その前に、テオドールと二人きりのデートをしたいが。
「ふふ、私は幸せ者ね」
今日のデートを思い返す度に、笑みがこぼれてしまう。
それくらい楽しくて、幸せな時間だった。
ふわふわと浮いてしまうような、温かい気持ちになる。
この想い、大事にしていこう。
「……それにしても」
クラリッサは体を起こして、対面に置かれているベッドを見る。
この部屋は二人部屋なのだけど……
パートナーの女子生徒がいない。
すでに窓の外は暗くなっていて、門限も間近だ。
「おかしいわね……あの子、門限を破ったことはないし、ここまで遅くなったことは一度もないのに」
なにかしら事件に巻き込まれたのだろうか?
心配になったクラリッサは、探しに行こうとコートを取り……
「……ただいま」
その時、扉が開いて、パートナーの女子生徒が姿を見せた。
エレネア・ハイルス。
メガネがチャームポイントの女の子だ。
同級生なのだけど、童顔のせいか年下に見られることが多い。
「エレネア、遅かったじゃない。なにかあったの?」
「……ううん、なにも」
エレネアはとても暗い顔をしていて、生気がない。
重い病に侵されているかのようだ。
これほどわかりやすいウソはないだろう。
ましてや、クラリッサはエレネアの親友なのだ。
彼女がウソをついているかどうか、一発でわかる。
「ウソ」
「……」
「なにかあったんでしょう? どうしたの?」
「……」
「教えて、エレネアが困っているのなら放っておけない。力になりたいの」
「それは……」
エレネアがクラリッサを見た。
その視線は揺れていて、話をするかしないか迷っているようだ。
親友のこんな顔、見たことがない。
クラリッサは不安を募らせて……
しかし、放っておくことはできないと踏み込む。
「エレネア」
「……」
「教えて」
「……うん」
ややあって、エレネアは小さく頷いた。
そして、親友に隠そうとしていたことを話して……
「そんな……」
クラリッサは絶句した。