398話 打ち合わせ
ダブルデートが決まり、その打ち合わせを行うことに。
放課後、学院の食堂に集まる。
ごはんを提供するだけじゃなくて、放課後はカフェとして利用されることが多い。
「ありがとう、私たちのお願いを聞いてくれて」
クラリッサ先輩がぺこりと頭を下げる。
「そんな、気にしないでください」
「そーそー。ボクとしては、今までとちょっと違うデートができるから、なにも問題はないよ」
「それでも、ありがとう。私は恋愛に疎いせいか、どういう風にしたらいいかわからなくて……二人が一緒だと助かるわ」
意外な話だった。
クラリッサ先輩はとても綺麗だから、彼氏の一人や二人、いただろうと勝手に思い込んでいたが……
よくよく話を聞いてみると、テオドールが初めての彼氏で、しかも初恋らしい。
「クラリッサは、過保護と言えるくらい、とても大事に育てられていてね。あまり異性と接したことがなかったんだよ」
「それを、テオドールがさらったわけか」
「お父さんとお母さんに挨拶するの、大変じゃない?」
「……それはもう経験したよ」
すでに挨拶済みだったらしい。
そして、大変だったらしい。
テオドールは、どこか遠い目をして、乾いた笑みを浮かべた。
その気持ちはよくわかるぞ。
挨拶、大変だよな……
「そんなこともあったから、初めてのデートはぜひ、成功させたくてね。二人を頼りにしてしまうが……」
「ドーンと、竜の背中に乗ったつもりで安心していいよ」
「それは頼りになるな」
ユスティーナが言うと比喩にならないので、ついつい笑ってしまう。
「でも、ボクたちも、ダブルデートって初めてなんだよね……ねえ、アルト。ダブルデートって、どういうものなのかな?」
「俺も詳しくはないが、まあ、友達と遊ぶような感覚でデートをする、という感じじゃないか?」
二人きりだとぎこちなくなるかもしれない。
でも、四人ならそういうことも少なくなるだろう。
人数が多いから話が盛り上がるだろうし、楽しく遊べるはずだ。
その分、二人きりになれる時間は少ない。
ちょっと気を使うこともあるかもしれない。
まあ、その点は、テオドールとクラリッサ先輩は織り込み済みなのだろう。
「じゃあ、あまり深く考えないで、みんなでなにをして遊びたいか考えた方がいいのかもね」
「そうだな。テオドールとクラリッサ先輩は、なにか希望は?」
「僕はわりとなんでもいいのだけど……クラリッサはどうだい?」
「うーん、難しいわね。本当に恋愛は疎くて、どういうデートスポットがあるのかさえわからないの」
「デートスポットっていうと、劇場とか?」
詳しいな。
行きたいのだろうか?
「劇場か……悪くないかもな。ただ、値段はどうなんだろう?」
「高いものもあれば、お手頃なものもある。劇場のスタイルによるから、そこは、僕たちに合ったところを選ぶといいさ」
「なら、せっかくだから劇場に行ってみるか?」
「さんせーい!」
ユスティーナが笑顔で手を挙げた。
テオドールとクラリッサ先輩のためのダブルデートなのだけど……
そんなことは忘れたとばかりに、目をキラキラとさせている。
まあ、それはそれでユスティーナらしいか。
そんな天真爛漫なところに、俺は惹かれたのだ。
「劇場は二時間くらいだよな? 他になにをする?」
「皆でおいしいごはんを食べたいね。僕が良いところを探しておくよ」
「頼んだ」
「んー……クラリッサはなにかある?」
「そうね……私はお花が好きなのだけど、植物園とかに興味があるわ」
「おっ、いいねー。それ、採用!」
「ふふ、ありがとう」
ユスティーナとクラリッサ先輩は、共に笑顔だ。
気が合うらしく、だいぶ仲が良い。
「んー! なんか、すごく楽しみになってきたかも」
あれこれと話し合い、ある程度のデートプランがまとまり……
ユスティーナは、とびっきりの笑顔で言う。
その瞳は、子供のようにキラキラと輝いていた。
「アルト、アルト」
「うん?」
「ダブルデート、楽しみだね!」
「そうだな」
テオドールとクラリッサ先輩のためでもあるが……
それだけではなくて、俺たちも良い思い出を作りたい。
がんばろう、というのも変な話かもしれないが、良い方向へ転がるように全力で楽しむことにしよう。