396話 あれこれと追求します
「こんにちは。私は、クラリッサ・エルストよ。その……彼の、テオドールの恋人になるわ」
クラリッサ先輩は照れつつ、そう自己紹介をしてくれた。
背が高く、テオドールと同じくらいの身長がある。
それに合わせているのか、髪も長い。
腰下まで伸びていて、サラサラとたなびいていた。
全体的にスマートな印象だ。
例えるなら、野原を自由に駆けるうさぎ。
クラリッサ先輩は、そんな人だった。
「はじめまして。アルト・エステニアです」
「ユスティーナ・エルトセルクだよ」
俺たちも順々に自己紹介をした。
すると、クラリッサ先輩は驚いたように目を大きくする。
「どうしたんですか?」
「いえ……ごめんなさい。アルモートの英雄と竜の王女が、こんなにも気さくな人とは思わなくて」
「英雄はやめてください……」
そう呼ばれることは光栄なのだけど、身の丈に合っていないというか……
変に勘違いをしてしまいそうなので、色々と自重したい。
「ふふ、謙虚なのね」
「はは……」
「それよりも!」
ぐいっと、ジニーが前に出た。
「先輩とテオドールのこと、聞かせてもらっていいですか!?」
「お、おい、ジニー。いくらなんでも直球すぎないか……?」
「なによ。アルトくんだって、興味あるでしょ? そのために、こんな時間まで教室に残っていたんだから」
「それはそうだけど、聞き方というものが……」
「あたしは遠回しな言い方は好かないの」
「ふふ、私は気にしていないから。むしろ、そうやってまっすぐに来てもらえる方がうれしいわ」
本人がそう言うのなら、問題はないのだろう。
無理をしているという様子もない。
ただ……
「あー……君たち? そういう話は、なにも今すぐしなくても……」
テオドールが困っていた。
顔を赤くして、ものすごく照れて、困っていた。
こんなテオドール、初めて見る。
……それだけクラリッサ先輩のことが大事、ということなのかな。
友達の新しい一面を見ることができて、ちょっとうれしい。
「クラリッサ先輩は、テオドールのどこに惹かれて告白を受け入れたんですか?」
「なっ……!? あ、アルト、君まで……」
「仕方ないだろう? この流れ、どうすることもできないさ」
「し、しかしだね……」
「あら。テオドールは、私のことを話すのはイヤなの? あんなに熱烈に口説いてくれたのに」
「く、クラリッサまで……」
さっそく尻に敷かれている様子で、テオドールは困り果てていた。
「ほほう。テオドール殿は、クラリッサ殿のことは『嬢』とつけないのですな」
「あ、ククルの言う通りかも。あたしらのことは、ジニー嬢とか言うのに」
「言われてみればそうですね……それだけ、彼女のことが特別ということなのでしょうか?」
「そういう特別っていいよね。ねえねえ、他にもどんな特別があるのか教えてほしいなー」
「ふふ、いいわよ」
「く、クラリッサ?!」
テオドールは、とても激しい熱意をもって口説いてくれた。
緊張しつつ、それでもまっすぐに想いをぶつけてきてくれた。
そんなテオドールの姿に、一瞬で心を奪われてしまった。
クラリッサ先輩はそんな話をして……
そして、テオドールは耳まで赤くして、それを隠すかのように片手で顔を覆い上を向いていた。
ちょっとかわいそうではあるが、幸せ税として勘弁してもらいたい。
「なにはともあれ……おめでとう、テオドール」