395話 貴族故に
驚く俺たちを見て、テオドールは不思議そうにしていた。
どうして驚いているんだい?
彼の目はそう語っている。
「いやいや……求婚はいきなりすぎやしないか?」
「うんうん。同じ女の子として言わせてもらうと、ちょっとびっくりしちゃうと思うよ」
すでに付き合っているのなら、まあ、なくはない。
学生結婚をする人もいる。
でも、テオドールは違う。
まだ交際をしていないし、なんなら顔見知りというレベルだ。
それなのに、求婚というのはいきなりすぎやしないか?
「確かに、急すぎるだろうね」
「あれ? 自覚していたのか」
「テオドールのことだから、てっきり、いきなり求婚することこそが女性に対する最大限の愛情表現なのだよ、とか言うと思ってた」
「君たち、僕をなんだと思っているんだい?」
ユスティーナがわりといいたい放題だったが、気を悪くした様子はなく、テオドールは苦笑していた。
「言い方が悪かったね。結婚を前提とした交際をしてほしい、と申し込むつもりだ」
「それは……」
「あまり変わらなくない?」
どちらにしても重い。
「僕の場合は、それくらい大きく言わないとダメなのさ。そして、そんな言葉を受け止めてくれる人でないと難しい」
「それは……ああ、そういうことか」
テオドールの言いたいことを理解した。
ユスティーナはわからないらしく、キョトンとした顔で子首を傾げている。
「どういうこと、アルト?」
「テオドールは貴族だ。しかも、国を代表する五大貴族。言い方は悪いが……ただの遊びならなにも問題はない。でも、真剣に交際をするとなると、ただ付き合うだけじゃなくて、その先のことも見据えなければならない」
「それで求婚?」
「跡継ぎなんかの問題が関わってくるからな。今のうちからそういうことも考えないといけないから、だから、求婚なんだろう」
遊ぶだけなら、求婚なんてする必要はないが……
テオドールはそんなヤツじゃない。
キザなところはあるものの、とても真面目で誠実な性格をしている。
だからこそ、クラリッサ先輩に対して誠意を見せるべく、求婚をするのだろう。
それだけ本気なのだと示したいのだろう。
そう説明すると、ユスティーナは納得顔になって、次いで笑顔になる。
「なるほどー、うん、いいんじゃないかな? ボクは応援するよ!」
「ああ。俺たちにできることがあれば言ってほしい」
「ありがとう、二人共。その時はお願いするよ」
テオドールの恋か。
うまくいくといいが、果たして?
――――――――――
「おいおい、そんなおもしろそうな話、なんで黙っていたんだよ?」
「おもしろそうとか言わないの」
「女性の敵であります!」
「ふがっ!?」
迂闊な発言をしたグランが、ジニーとククルに沈められていた。
放課後。
教室に残り、いつものメンバーで雑談をしていた。
ただ、テオドールはいない。
有言実行とばかりに、クラリッサ先輩に告白しに行ったのだ。
「テオドールの告白、成功するかな? ボク、半々だと思っているんだけど」
「んー……あたしは、わりと成功率高いと思っているわ」
「私もです」
「おっと、意外と高評価」
「テオドール殿は女性に優しく、そして、しっかりしていますからね。普段の言動はややマイナスポイントですが、彼をよく知るものならば、それも愛嬌と捉えることができるのであります」
「そういうこと。おまけに、五大貴族。なんだかんだで、テオドールって超優良物件なのよね」
テオドールの告白は成功するのか?
ものすごく気になるものの、さすがに現場を覗き見するわけにはいかない。
なので、教室で結果報告を待っているというわけだ。
「なあなあ、テオドールの告白が成功するかしないか、賭けないか? 俺は……ごふぁ!?」
「だから、そういうところよ、兄さん」
復活したグランが、再びジニーに沈められていた。
そんなこんなありつつ、1時間ほど経過して……
「やあ、おまたせ」
テオドールが戻ってきた。
今まで見たこともないような晴れやかな笑顔で……
隣に綺麗な女性がいて……
結果は聞くまでもない。
「おめでとう、テオドール」
「ありがとう、我が友よ」