391話 アルモートへ
フィリアを発つ日がやってきた。
修学旅行で訪れたのだけど、でも、予想外の事件が多発して……
別の意味で思い出深い時間を過ごすことになった。
良い思い出とは言えないが……
ただ、なかったことにしたいとは思わない。
この経験は、きっと、どこかで活きてくるだろう。
「今回はありがとうございました」
王城の中庭に出ると、わざわざアリーゼが見送りに来てくれた。
聖騎士隊長であり、フィリアの王にそんなことをしてもらうなんて、と思わないでもないのだけど……
彼女なりの誠意なのだろう。
それを否定することは失礼なので、素直に受けておいた。
「アルモートへ戻り、再び学業を?」
「そうですね」
「公の場ではないので、その口調はやめてください。最初、会った時と同じで構いませんよ。ああ、私のは癖のようなものなので、気にせず」
「ですが……」
「その方が気楽なのです。それとも、命令しましょうか?」
「……わかったよ」
どうやら、普段のアリーゼは、こんな風にちょっとした茶目っ気があるらしい。
苦笑しつつ、頷いた。
「アルトなら、もう学ぶことはないと思いますが」
「そんなことはないさ。まだまだ未熟だから、もっと色々なものを取り込んでいかないと」
「真面目なのですね。そういうところがとても好ましく思います」
「えっと……」
「どうですか? 卒業後はフィリアにやってきませんか? 聖騎士に推薦しますよ」
「えっ」
「本気ですよ?」
冗談だろう、と言いかけたところで、先を制するようにそう言われてしまった。
確かに、アリーゼは真面目な顔をしていた。
ウソや冗談を言っている様子はない。
「えっと……」
「返事は今すぐでなくて構いません。期待だけさせていただきます」
つまり……すぐに断らないで、じっくりと考えてほしい、ということか。
可能性を残す辺り、やはりアリーゼは本気で言っているのだろう。
そこまで評価してくれることは素直にうれしい。
でも、俺は……
いや、その先を考えるのはやめておこう。
アリーゼがいうように、じっくり考えた方がいいだろう。
「アルトー! まだー!?」
「そろそろ時間でありますよ」
少し離れたところにいるユスティーナが、少し不機嫌そうに言う。
その隣にいるククルも、どことなくムスッとした様子だ。
帰りはユスティーナに運んでもらうことになっている。
本人曰く、「ボクならひとっ飛びだよ!」とのことだ。
そして、ククルも一緒にアルモートへ向かうことに。
今までと同じく、なにかあればククルの力を頼りにしていいらしい。
アリーゼとしては、そうすることでアルモートとの友好の証としたいのだろう。
「もっと色々な話をしたいところですが、彼女たちは限界のようですね」
「だな」
アリーゼが優しい笑顔を作り、そっと手を差し出してきた。
「改めて、ありがとうございました」
「こちらこそ」
その手を握り返す。
「フィリアとアルモートの間に、永遠の友好が結ばれることを祈ります。そして、私達の間にも」
「そうあれば、とても素晴らしいことだな」
そのために、俺にできることがあれば努力しなければ。
平和を脅かす者がいれば戦う。
人と竜の友好を乱す者がいれば、武器を取る。
そんな決意を改めて胸に抱いた。
「では、また」
「ああ、また」
さようならは言わない。
そして、別れは笑顔で。
こうして……
長い長い修学旅行は終わりを告げた。