389話 どういうこと?
「どうしたの、アルト? いきなり大きな声を出して」
「いや、だって……勲章?」
「うん、勲章」
聞き間違いかと思ったが、そうではないみたいだ。
ユスティーナは、再び勲章と繰り返した。
「どうして、勲章なんて……?」
「えっと……アルト、それ、本気で言っている?」
なぜか、呆れたような目を向けられてしまう。
「はぁあああ……アルトは謙虚なところが美徳だと思うけど、でも、ちょっと行き過ぎだよねー。もうちょっと欲張りというか、ドヤ顔してもいいと思うよ?」
「なんの話だ?」
「でもでも、やっぱりそこがアルトらしいな。ボク、そういうところが大好き♪」
一人で自己完結されてしまった。
それはそうとして。
「具体的な話を教えてくれないか?」
「具体的もなにも、そのままだよ。前代未聞の事件を解決に導いたアルトに、勲章が贈られることになったの」
「……冗談だろう?」
「ホントだよ」
「マジか……」
妙な疲れを覚えてしまい、ベッドに寝た。
「わわっ。アルト、大丈夫?」
「……体は大丈夫だけど、心はそうでもないかも」
「もう。そんなに驚かなくてもいいじゃない。あれだけの事件を解決してみせたんだから、勲章の一つや二つ、もらえるのが当たり前だと思うよ」
「俺一人で解決したわけじゃないのに……」
「それでも、だよ。アルトが事件の突破口を開いたのは確かだもん。あれ、ボクが暴れてなかったとしても、聖堂が破壊されて国が崩壊、なんて可能性もあったからね。いわば、アルトはフィリアの救世主なんだよ」
「すごい大きな話になっているな……」
「それだけのことをやってみせたんだよ。もっと、胸を張っていいと思うな」
ユスティーナはにこにこ笑顔でこちらを見つめてきた。
俺が勲章をもらうことがうれしいのだろう。
その気持ちはわかるつもりだ。
俺も、ユスティーナが勲章をもらうことになれば、自分のことのように喜ぶだろう。
とはいえ……
「まさか、こんなことになるとは」
いざ自分の身に降りかかるとなると、なかなか実感が湧いてこない。
分不相応なのではないか?
そんなことばかり考えてしまう。
「うれしくないの?」
「いや、まあ……うれしいといえば、素直にうれしい」
ここはアルモートじゃなくて、フィリアだ。
他国で勲章をもらうなんて、そうそうあることじゃない。
快挙と言っても問題ないだろう。
幼い頃に夢見た英雄に一歩、近づくことができたみたいで、それはうれしい。
ただ……
「俺なんかが、って思うんだよな」
元いじめられっ子のせいか、なかなか自己肯定ができない。
無闇に自分を卑下することはなくなったものの、誇らしくできるかというと、それは別の話だ。
「アルト」
そっと、ユスティーナが俺を抱きしめた。
柔らかい感触と、甘い匂い。
その二つに包まれて、ドキドキしたり慌てたりすることはなくて、不思議と心が落ち着いた。
「ボクは、ずっとずーっとアルトのことを見ていたよ? すごくがんばってきたことを知っているよ?」
「……」
「だから、こういう時は素直に喜んでいいの。それで、ボクも一緒に喜ばせてくれるとうれしいな」
「ありがとう」
ユスティーナの言葉で、いくらか気持ちが楽になった。
いつもそうだ。
彼女は俺のことを助けてくれる。
ユスティーナがいなければ、俺は、とっくにダメになっていただろう。
「いつもありがとう」
「うん、どういたしまして」
ユスティーナはとてもうれしそうに言いつつ、さらに、ぎゅうっと俺を抱きしめるのだった。