387話 一週間後
「……んぅ?」
ふと、目が覚めた。
目を開けると、見知らぬ天井。
顔を横にやると、やはり見知らぬ部屋が見えた。
どうやらベッドに寝ているみたいだけど……
ここはどこだ?
不思議に思いつつ、体を起こそうとして……
「いっ……!?」
神経を針で刺されているかのような、我慢できない痛みが走り、声にならない悲鳴がこぼれた。
起き上がるなんてできるわけがなくて、全身から力を抜いて、再び仰向けになる。
「ふぎゃ!?」
俺の悲鳴に驚いた様子で、すぐ近くから変な声が。
顔を傾けて見ると、ユスティーナが床に転がっていた。
イスに座り、俺の様子を見ていた……のだろうか?
「いたたた……お尻打っちゃった」
ユスティーナは軽く涙目になりつつ立ち上がり、
「……ふぁ?」
こちらを見て、目を大きくした。
ほどなくして、その瞳に涙が溜まり……
さらに、くしゃりと表情を歪ませる。
「あ、あ……アルトーーーっ!!!」
「っ!?!?!?」
思い切り抱きつかれてしまい、再び声にならない悲鳴が。
「アルトアルトアルト! よかった、よかったよぉおおおおおーーー!!!」
「まっ……ちょ……ユス……ティーナ……!?」
怪我をしているせいだけではなくて、ユスティーナが思い切り抱きしめているせいで、圧倒的な危機感!?
俺、このまま彼女に抱きしめ殺されてしまうのでは……?
「あっ!?」
そうやって本気で死を覚悟したところで、ようやく俺の様子に気がついてくれたらしく、ユスティーナが慌てて離れた。
「ご、ごめんねっ!? 本当にごめんね、アルト。その、ようやく目を覚ましてくれたから、すごくうれしくて、つい……」
「いや、気にしてないよ……うん? ようやく目を覚ました?」
「覚えてないの? アルト、事件を解決した後、そのまま気絶しちゃったんだよ。ひどい怪我をしていたから、そのまま治癒院で緊急手術が行われて……うぅ、生きていてよかったぁ」
その時のことを思い出したらしく、ユスティーナが再び泣いてしまう。
そこまで心配をかけていたことが申しわけない。
「そっか……俺、あのまま気絶したのか」
「気絶というか昏倒なんだけどね……もうっ、アルトは無茶をしすぎだよ! 腕利きの治癒師を国が用意してくれなかったら、すごく危なかったみたいだし……それでも、ぜんぜん目が覚めなかったし、うぅううう」
拗ねつつ悲しみつつ、器用な顔を作ってみせる。
「ごめん、心配かけて」
「本当だよ、もう……あんな無茶は二度としないでよ?」
「それは約束できない」
「うぅ、なんで!?」
「だって、ユスティーナが危なかったんだ。大好きな女の子のためなら、無理の一つや二つ、するさ」
「あぅ……」
ユスティーナは頬を染めて、恥ずかしそうに目を逸した。
照れているらしい。
うん、よかった。
またこうして、いつも通りのユスティーナを見ることができて、本当によかったと思う。
おかげで、体を起こすこともできない怪我を負ってしまったものの……
これは勲章のようなもの。
大事な彼女を守るためのものだから、逆に誇らしく思えてきた。
「ねえ、アルト」
「うん?」
「……ありがとう」
そっと、ユスティーナが抱きついてきた。
今度は優しく、ゆっくりと。
自分の体温を分け与えるかのようで、とても温かい。
「ボクを助けてくれて、ありがとう。事件を解決してくれて、ありがとう。生きていてくれて、ありがとう……大好きだよ」
「俺も、ユスティーナが好きだ」
体は動かないから、代わりにありったけの想いを込めて、そうつぶやいた。