384話 これでよかったのかもしれない
展望台へ続く階段の途中にイヴの姿があった。
そこで展望台の様子を見て……
ユスティーナが元に戻るのを見て……
完全に自分の計画が潰えたことを知り、その場に座り込む。
「まさか、本当に竜の王女を元に戻してしまうなんて……」
ユスティーナは、完全な暴走状態にあった。
理性なんて欠片も残っていない。
あるのは、人間に対する憎しみと殺意だけ。
普通に考えて、そんな状態から元に戻ることはできない。
後はただ堕ちるだけ。
破壊の限りを尽くすだろう。
人間に被害が出る。
竜にも被害が出る。
そして、両者の間に、決して修復されることのない溝ができる。
そうなれば、イヴの願いが叶う。
竜という気高く高潔な精神を持つ生き物。
くだらない人間に関わることなく、傷つけられることなく、自由に生きていくことができるだろう。
そう思っていたはずなのに……
「まさか、あの状況から全てをひっくり返されるとは」
勝利を確信した。
敗北はないと、絶対的な自信があった。
そのはずなのに……
「それをひっくり返すことができたのは、認めたくないけど……人間の力、なのでしょうか」
ユスティーナを暴走させていはいけないと、アルトは孤軍奮闘した。
一人でテロリストを相手に戦い……
どう考えても死ぬような状況に陥ったのに、しかし、死ぬことはなくて……
最終的に、大事な人をその手に取り戻してみせた。
それは、イヴが認めない……認めたくない人間の力なのだろう。
人間は汚い。
平気な顔をして他人を傷つけることができる。
笑いながら踏みにじることができる。
それでも、それは一部の者だけだ。
愚か者が目立つだけで、大半の人は誠実に、まっすぐに生きている。
アルトはそのことをきちんと理解しているからこそ、最後まで諦めることなく、走り続けることができたのだろう。
これまでも、これからも人間と竜は手を取り合っていけると、そう信じていたのだろう。
「でも、私は信じることができませんでした……」
人間なんて愚かだ。
つまらない存在だ。
滅びてしまえばいい、と思ったことも少なくない。
そんな人間が竜と一緒にいるなんて……
イヴにとっては許せないことだった。
彼らを縛り付けてはいけないと、寄生してはいけないと、常々そう思っていた。
「ただ……浅はかなのは私の方だったかもしれませんね」
アルトとユスティーナを見て……
奇跡を目の当たりにして、それでもなお、彼らの想いを否定することはイヴにはできなかった。
「……これでよかったのかもしれませんね」
計画は潰えた。
願いを果たすことはできなかった。
それでも、不思議と悪い気分ではない。
憑き物が落ちたかのような、スッキリとした気分だ。
「本当にそれでよかったの?」
ふと、第三者の声が割り込んできた。