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特別話 初詣

「アルト、おはよう!」

「あうー!」


 寝ていると、いきなり鈍い衝撃が走り、


「ぐあ!?」


 思わず悲鳴がこぼれてしまう。


 今さっきまで寝ていたので、頭がぼーっとして、思考が働かない。

 でも、そのまま寝ているわけにもいかず目を開けると……


「おはよう!」

「あう!」


 ユスティーナとノルンが俺の上に乗っていた。


 俺を押しつぶそうとしている……わけではなくて、起こそうとしたのだろう。

 でも、待ってほしい。

 普通に乗っただけじゃ、今みたいな衝撃はない。


 たぶん、勢いをつけて飛び乗ったのだろう。


「……おはよう」


 ひとまず挨拶を返した。

 それから二人にどいてもらい、体を起こす。


「どうしたんだ、いきなり?」

「なにを言っているの!」

「あう!」

「今日はお正月だよ、元旦だよ。寝ているなんてもったいないよ!」

「あうあう!」


 言われてみれば、今日は元旦だ。

 新年の初めの一日。


 寝て過ごすとしたらもったいないかもしれないが……


「まだ朝……というか、早朝といって問題ない時間じゃないか」


 時計を見て、ついついあくびをしてしまう。

 元旦だからといって、こんなに早く起こされるなんて思ってもいなかった。


「ほらほら、起きて。一緒にごはん食べよう?」

「あうー」

「わ、わかった。わかったから服を脱がそうとしないでくれ。自分で着替えられるから」

「……ちぇ」


 とても残念そうな顔をされてしまう。


 付き合うようになってから、ユスティーナが今まで以上に積極的になったような気がした。

 隙あれば、こんなことを繰り返していて……

 色々な意味で先が不安だ。




――――――――――




「ごちそうさま」

「おそまつさまでした」


 朝はユスティーナ特製のお雑煮をいただいた。


 餅はやわらかくて、鶏肉は旨味がたっぷり。

 野菜にしっかりと出汁が染み込んでいて、全てがおいしい。

 あまりにおいしいから、ついつい二杯もおかわりしてしまった。


「あうー」


 ノルンも大満足らしく、にこにこ笑顔で三杯食べていた。

 ユスティーナはその上をいく、五杯。

 竜は胃が大きいのだろう。


「なんだかんだで、ちょうどいい時間になったな」


 お雑煮を食べつつ、のんびりと話をしていたので、気がつけば心地良い日差しがあふれる時間に。

 他の寮生も起きてきたらしく、少しずつ賑やかになってきた。


「ねえねえ、アルト。今日の予定はある?」

「特にはないな。まずは訓練を……」

「お正月くらい訓練はやめようよ」

「そ、そうだな」


 ジト目を向けられて、慌てて頷いた。

 ちょっと怖い。


「逆に、ユスティーナはなにかしたいことは?」

「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました!」


 待ってましたとばかりに、ユスティーナはドヤ顔をした。


「初詣に行こう?」

「初詣か……」


 アルモートは竜を信仰する国で、神を信仰するフィリアとは違う。

 ただ、全員が全員、神を見ていないかというとそうでもなくて……

 少数にはなるが、神を信仰する人はいる。


 そんな人のために、教会や社が建設されている。


 クリスマスや正月は、多くの人で賑わうそうだ。

 信仰とかは関係なく、笑顔があふれるのならばと、教会も社もイベントを受け入れているらしい。


 というか、最近では屋台をたくさん出店して、ここぞとばかりに稼いでいるとか。

 商魂たくましい。


「あうー?」


 初詣ってなに?

 という感じで、ノルンが小首を傾げた。


 言葉で説明するのは難しいから……


「なら、行ってみようか」




――――――――――




 ユスティーナとノルンと一緒に、近くにある社へ。

 初詣にやってきたのだけど、たくさんの注目を浴びていた。


 正確にいうと、ユスティーナとノルンが注目されていた。


「えへへー、アルト、この着物どうかな?」

「あうあうー」


 ユスティーナとノルンは着物とかんざしで着飾っていた。

 共に色は赤。

 髪の色は違うのだけど、雰囲気が似ているせいか、美少女姉妹として周囲から認識されているようだ。


 あの姉妹かわいいとか、一緒に遊びたいとか、そんな声がちらほら聞こえてくる。


「よく似合っていると思う」

「どれくらい似合っている?」

「えっと……抱きしめたくなるくらい」

「えへ、えへへ、うへへへぇ」


 喜ぶのはいいが、その顔はやめた方がいい。

 女の子がしたらいけない顔になっているぞ……?


「あうあう」

「もちろん、ノルンもよく似合っているぞ」

「うー!」


 満面の笑みを浮かべて、ノルンが抱きついてきた。

 喜んでいるらしい。


「むー」


 ユスティーナが唇を尖らせるものの、ノルンを引き剥がすような大人気ない真似はしない。


「なら、ボクはこっち!」


 反対側に抱きついてきた。

 ……やっぱり大人げない。


 右手にユスティーナ。

 左手にノルン。

 両手に花というやつで、周囲の視線が痛い。


 でも……


「楽しいからいいか」


 そう割り切り、初詣へ。


 社に続く石畳の左右には、たくさんの露店が並んでいた。

 ホットサンド、りんご飴、わたがし、キャラメル、かき氷……色々だ。


 しかし、冬にかき氷……?

 季節外れのような気がするが、見ていると、意外と売れているようだ。

 祭りのような雰囲気もあるから、それで売れているのかもしれない。


「あうあう」


 あれ食べたい、というような感じで、ノルンがキラキラとした目でこちらを見る。

 負けてしまいそうになるものの、心を鬼に。


「まずは参拝を済ませような。露店巡りはそれからだ」

「うー……」

「ほらほら、そんなにしょぼくれないの。いい子にしていたら、神にお願いを叶えてもらえるかもよ?」

「あう!」


 ユスティーナの言葉に頷いて、ノルンは笑顔を見せた。


 同じ竜だからなのか、ノルンはユスティーナの言うことをよく聞く。

 姉のように思っているのかもしれない。


「じゃあ、いこうか」

「うん、そうだね」

「あうー!」


 三人で社へ。

 幸いというべきか、さほど混んでなくて、少し待つだけで順番が回ってきた。


 三人で並んで願う。


(今年もユスティーナと一緒に……)


 少ししてその場を離れ、参道へ戻る。


 すると、ユスティーナがくるっと回転しつつ、俺の顔を覗き込む。


「ねえねえ、アルト。アルトはどんなお願いをしたの?」

「俺は……ユスティーナと一緒にいられますように、って」

「そうなの? ボクのことを考えてくれたの? えへ、えへへへぇ、そういうアルトだから好き♪」

「あうー……」


 ユスティーナは喜び、ノルンはジト目に。

 しまった、ノルンのことも考えるべきだった。


「えっと……ユスティーナは、なにを願ったんだ?」

「んふふー、なんだと思う?」

「……俺に関すること?」

「正解」

「詳細は?」

「それは……」

「それは?」

「秘密だよ♪」


 ユスティーナはとびっきりの笑みを浮かべて、人差し指を唇に当てた。


 彼女がなにを願ったのか?

 それは興味あるのだけど……でも、無理に聞く必要はないか。


 これまでもこれからも。

 俺は、ずっとユスティーナと一緒にいるのだから。


「アルト、アルト。露店巡りをしよう?」

「あうー!」

「そうだな。そろそろいい時間だから、昼代わりに色々と食べてみるか」


 二人と一緒に露店を巡り……

 今年も良い年になると、そう予感するのだった。

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◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新作を書いてみました。
【堕ちた聖女は復讐の刃を胸に抱く】
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。

【ネットゲームのオフ会をしたら小学生がやってきた。事案ですか……?】
こちらもよろしくお願いします。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 元日→1/1 元旦→1/1の午前 今日は元旦 が違和感 間違いでは無いらしいですけど一応
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