381話 準備は整えた
「てぇえええええ!!!」
ユスティーナの動きを止めたところで、ククルが突っ込んだ。
巨大な大剣を大きく振りかぶり、ハンマーのように使い、叩きつける。
ゴンッ! という強烈な音が響いた。
「ガァッ……!?」
強靭な鱗に守られているため、刃が届くことはない。
しかし衝撃を消すことはできず、ユスティーナはぐらりとよろめいた。
鉄塊にも似た、巨大な大剣の一撃。
しかも、それを操る者は、人を超えた力を持つ聖騎士。
さすがにノーダメージとはいかないらしく、漆黒の巨体の動きが鈍る。
「そこですっ!!!」
ククルを援護するように、アリーゼが動いた。
その動きは目に止まることはなく、まさに風のよう。
瞬時にユスティーナに接近すると、双剣を巧みに操り、踊るように連撃を繰り出していく。
ククルと同じように、アリーゼは刃の腹を叩きつけていた。
巨大な大剣を比べると、一撃一撃のダメージは低い。
ただ、それを補うように、数で勝負に出る。
10、20、30……
100、150、200……
途切れることなく、刃を叩きつけていく。
嵐のような猛攻だ。
一撃の威力は低くても、これだけの数を叩き込まれたら、いくら竜でもひとたまりもない。
ユスティーナは悲鳴をあげつつ、身を守るかのように顔を低くした。
ここに来て、初めて攻撃ではなくて防御を選んだ。
全員が協力することで、ユスティーナを押し込むことに成功する。
みんなが作ってくれたチャンスを逃すわけにはいかない。
俺は前に出る。
「くっ……」
時間が経ったことで、さらに血が足りなくなっているみたいだ。
体が鉛のように重く、意識を保つことも難しくなってきた。
でも、ここで倒れるわけにはいかない。
ユスティーナを止めなければいけない、という使命感もあるのだけど……
それ以上に、みんながここまでしてくれているんだ。
俺を信じてくれているんだ。
なら、それに応えないと!
「アルト、いけ!」
「アルトくん! お願い!」
「アルト、君ならできる!」
「アルトさま、がんばってください!」
「アルト殿、絶対に大丈夫であります!」
「ガウッ!」
「……いきなさいっ!!!」
「はい!!!」
みんなの声援が力に変わる。
あれほど重かった体が、ウソみたいに軽くなった。
手足に力がみなぎり、自由に動かせるようになった。
前へ。
前へ。
前へ。
「ユスティーナっ!!!」
そして、彼女の目の前に移動した。
「グルルルゥ……」
俺の声に反応しているのか。
それとも、ただの気まぐれなのか。
どちらなのかわからないが、ユスティーナは動きを止めた。
個人的に、前者であってほしいと願う。
「ユスティーナ……俺のために怒ってくれたことは、それはうれしい。あと、いつも心配をかけて、迷惑もかけたりして、申しわけない」
「……」
ユスティーナは動かない。
俺の話を聞いてくれているのだと信じて、言葉を紡いでいく。
「でも、怒りに身を任せたらダメだ。こんなことをしたらダメだ。それに、こんなことをする必要はない。だって……ほら。俺は無事だろう? ちゃんと生きている」
「……」
「暴れるよりも、みんなと一緒に遊ぶ方が楽しいだろう? 色々なことを話して、一緒にごはんを食べて、笑って泣いて……そうした方がずっとずっと良い時間を過ごすことができるんだ。それは絶対だ。断言できる。だから……こんなことは、もう終わりにしよう」
さらに一歩、前に出た。
そして……
ユスティーナに頭を下げてもらい、その唇にキスをする。