379話 兆し
年末年始の更新についてのお知らせ:詳細は活動報告にて
グランから槍を借りて、ユスティーナに立ち向かう。
うん。
やっぱり、槍が一番しっくりくるな。
「ガァアアアッ!!!」
暴走するユスティーナは、アリーゼを狙いその豪腕を振るう。
アリーゼは体勢を崩していて、そのままだと直撃してしまうだろう。
でも、そんなことは許さない。
間に割り込み、体を回転させつつ、その勢いを乗せて槍を払う。
ククルも同時に動いた。
俺に合わせるようにして大剣を振り、同時にインパクト。
ユスティーナの攻撃を逸らし、アリーゼへの攻撃を阻止した。
「ククル! それと、あなたは……リックですか?」
「はい。直接では、はじめまして」
アリーゼと直接顔を合わせるのは、これが初めてだ。
でも、不思議な親近感があった。
前からの知り合いのような、ずっと一緒にいたような。
一緒に事件を解決しようと、協力した仲だ。
だから、親近感を覚えているのかもしれない。
「よかった、無事だったのですね……いえ、無事なのですか?」
「はは、なんとか」
体はボロボロだけど、意識はハッキリとしている。
たぶん、問題はない。
「再会を喜びたいところですが、そうも言っていられない状況ですね」
「アリーゼさん、俺達は……」
「彼女を止める、ですか?」
「はい」
アリーゼは厳しい目をこちらに向ける。
でも、それはすぐに柔らかいものになった。
「なら、私はしばらくの間、援護に徹しましょう」
「いいんですか?」
「私とて、彼女の討伐は避けたいところです。そのようなことをすれば、人と竜の間に決定的な亀裂が入ってしまいますからね。リックが彼女を正気に戻せるかどうか、分の悪い賭けですが……可能性が少しでもあるのなら、まずは、そちらを優先します」
「ありがとうございます」
「ただ、無理と判断した時は、彼女を殺します。いいですね?」
「そんなことにはなりません」
ユスティーナを正気に戻す策があるわけじゃない。
それでも、俺は断言することができた。
もしも、この場にいるのが俺一人だったら、迷いがあっただろう。
絶望に飲み込まれ、諦めていたかもしれない。
でも、一人じゃない。
グランがいる、テオドールがいる。
ジニーがいる、アレクシアがいる、ククルがいる。
みんながいる。
なら、なんとかなる。
そんな希望を抱くことができた。
「それと、俺のことはアルトで」
「なるほど、あなたが竜の王女の寵愛を受ける……わかりました、アルト。やり方は、あなた達に任せます。この国と……そして、人と竜の未来を頼みましたよ」
「はい!」
アリーゼに納得してもらい、味方になってもらうことに成功した。
これは大きい。
この勢いのまま、ユスティーナを正気に戻したいところだけど……
「グァアアアアアッ!!!」
彼女の暴走が止まることはない。
むしろ、より悪化しているような気がした。
暴れて、破壊して、混沌を撒き散らしていく。
まるで御伽話に出てくる魔王だ。
それに匹敵するような暴れっぷりで、どんどん被害が拡大していく。
今はまだ展望台にとどめているが、外に出てしまったらどうなるか?
考えたくない展開だな。
そうなる前に、絶対に阻止しないといけない。
そのための方法は……
「……試してみるか」
御伽噺という例えから、とある策を思いついた。