377話 変わり果てた姿
イヴは素直に道を空けてくれた。
勝負に負けたからという理由もあるだろう。
ただ、それだけじゃなくて……
彼女は、ずっと疲れていたのかもしれない。
竜を守るために竜との絆を断つ。
矛盾した行為を続けるうちに、心が疲弊して、自覚なしに傷ついていたのかもしれない。
だから……いや。
あれこれと推測しても、答え合わせをすることはできない。
たぶん、彼女はなにも話さないだろう。
尋問されたとして、その目的や手口を話すことはしても、信念は口にしないだろう。
だから、答えはわからない。
推測するだけ。
無理に暴くようなことはしたくない。
彼女の想いは彼女だけのものだ。
そう自分を納得させて、先を急ぐ。
「ユスティーナ……!」
展望台に続く階段を登る。
上に行くにつれて、振動が大きくなってきた。
間近で地震が起きているかのようだ。
まっすぐに駆け上がることができず、少しよろめいてしまう。
「くっ……いったい、展望台でなにが……」
嫌な予感が膨らむ。
すぐにでも駆けつけたいのだけど……
登りきる手前で、ごっそりと階段が消えていた。
強行突入に備えて、テロリスト達が階段を爆破したのだろう。
「こ……のぉっ!」
自由に動かない体に鞭を打ち、思い切りジャンプをした。
少し距離が足りず、軽く落ちてしまいそうになるけれど……
なんとか穴を飛び越えることに成功。
「はぁっ、はぁっ……これは、いよいよやばいか……?」
普段ならなんてことないが、今の状態で大きく体を動かすことは、かなり厳しい。
一気に血を失ったのか、視界が暗くなってきてしまう。
体の力も抜けて……
「……ガァアアアアアッ!!!」
「うわっ」
少し先から強烈な咆哮が聞こえてきて、我に返る。
今の……ユスティーナか?
たぶん、ひどいことになっているのだろう。
でも、おかげで意識を保つことができた。
どんな時でも、彼女は俺を助けてくれる……と考えるのは、さすがに都合が良すぎるだろうか?
「今、行くからな……!」
必死に体を動かして、展望台へ到着した。
そこで見たものは……
「グルァッ!!!」
怒れる漆黒の竜。
神竜バハムートが暴れ、破壊を撒き散らしていた。
「くっ、この……しつこい!」
彼女と対峙するのは、双剣を手にする剣士だ。
一目見て、その正体に感づいた。
たぶん、彼女がアリーゼなのだろう。
直接顔を見たことはないし、声だけしか聞いたことはないのだけど、不思議とすぐに察することができた。
アリーゼは聖騎士の隊長だ。
暴走したユスティーナを放置するわけがない。
説得を考えるよりも、まず先に討伐を考えるだろう。
彼女の立場を考えたら、それが正しい。
正しいが……
ただ、俺は俺で別の立場にいる。
アルモートからの旅行者で、竜騎士学院の生徒。
そして……ユスティーナの恋人だ。
だから、俺が取るべき行動は、討伐しようとするのではなくて……
「ユスティーナっ!!!」
暴走するユスティーナを止めることだ。