38話 ライバル登場
「……今、なんて?」
聞き間違い、幻聴などをついつい疑ってしまう。
しかし、目の前の現実が変わることはなくて……
「アルトさまのことが好きです。私と付き合っていただけませんか?」
アレクシアは恥ずかしそうにしながらも、再び想いを告げてきた。
ああ、なるほど……と、納得してしまう。
アレクシアとユスティーナは、どこか似ているような気がしたが……
その答えは、二人が抱えている想いが同じ、ということなのか。
「その……すまない。正直なところ、なんて答えたらいいかわからない。突然のことで驚きが勝るというか……どうして俺なんだ?」
「もちろん、あの時に助けていただいたからです」
当時を思い返すように、
その時に生まれた感情を大切にするように、
アレクシアは胸に手を当てながら、優しく語る。
「アストハイム家の長男から助けてくれたアルトさまは、私にとって、まさに白馬の王子さまでした。その強さ、その優しさの虜になってしまい……あれ以来、ずっとアルトさまのことを考えてきました。いつか再会したい。謝罪をして、お礼を言って……そして、想いを伝えたい。ずっと、そのことばかりを考えてきました。一目惚れといっても過言ではありません」
「そう……なのか」
アレクシアに想いをぶつけられた俺は、情けないことにぼーっとすることしかできない。
うれしいということよりも、驚きの方が勝っている。
それと、なぜ俺なのか? という疑問もあった。
アレクシアだけではなくて、ユスティーナもだけど……
どうして、平凡が取り柄のような俺に惚れるのだろうか?
なぜ? と、ついつい真面目に考えてしまいそうになる。
「俺は……」
「あっ、すみません。私から告白しておいてなんですが、答えは、その……また今度にしてもらえたらと。アルトさまからしたら、突然のことでピンときていないでしょうし……」
その通りだった。
「まずは、私のことを知ってもらえたらと思います。その上で、よく考えていただければと……どうでしょうか?」
「それはありがたいが……いいのか? 待たせるっていうのは、あまりよくない気がするが……」
「だからといって、急かすのもよくないと思います。恋愛は対等な関係でするもの。女の告白が上ということはありませんし、待たせることが悪いなんてことはありません。むしろ、たくさん考えてもらった方がうれしいです。それだけ、真剣になってくれている、ということですからね」
しっかりとした子だった。
両親は過保護で、アレクシアはとても大事に育てられてきたのだろうが……
しかし、アレクシアは一人で歩いていく力を持っている。
そんな感想を抱いた。
「わかった。その言葉に甘えさせてもらう」
「よかったです。では、この後、お時間はありますか? あの時もお礼もかねて、我が家に招待したいのですが……」
特に予定はないが、ユスティーナに連絡を入れた方がいいかもしれない。
そんなことを考えていると……
「アールートー」
当の本人が現れた。
寮の部屋で分かれた時の笑顔はなくて、怒っているような拗ねているような、とても険しい顔をしていた。
「ユスティーナ、どうしてここに?」
「もちろん、アルトと少しでも一緒にいたいからだよ!」
「学院でも寮でも、一緒にいると思うが……」
「それじゃあ足りないよ! ボクは、24時間、アルトと一緒にいたいんだからねっ」
そういうことを堂々と言わないで欲しい。
さすがに照れる。
「一緒にいたくて追いかけてきたら……むうっ、むううう! アルト、こんなに綺麗な女の子と一緒に……しかも、告白されているし!」
聞こえていたのか。
俺とユスティーナは、一応、付き合ってはいない。
それでも、どこかしら気まずいものはあり……
なんとなく悪いことをした気分になってしまう。
「キミ、誰!?」
「はい。私は、アレクシア・イシュゼルドと申します。実は、アルトさまに……」
アレクシアは自己紹介をすると、俺との出会いについて語り始めた。
大丈夫だろうか?
ユスティーナのことだから、「キミのせいでアルトがいじめられるきっかけを……!」とか言いかねない。
そんな危惧をしたのだけど……
「うんうん、そうだよね! アルトはすごいよねっ」
「ええ、そうですね。アルトさまがいなければ、私はどうなっていたことか」
二人共、俺の話で盛り上がっている。
妙なところで意気投合していた。
張本人としては、ものすごく恥ずかしい。
まあ、二人が仲悪くするよりも仲良くする方がいいと思う。
この際、俺の羞恥心については気にしないことにしよう。
「まあっ、では、エルトセルクさまが学院にやってきた神竜バハムートなのですね。そういう話を聞いていましたが、まさか、こんなにかわいらしい方だなんて」
「えー、照れちゃうよー。それに、それを言うならイシュゼルドだってすっごく綺麗だよ。ボク、女の子だけど見惚れちゃいそうになるもん」
「そんな、私なんて……エルトセルクさまの方が……」
「ううん、イシュゼルドの方が……」
今度は褒め合い合戦が始まった。
気が合うな、この二人。
本当に初対面なのだろうか?
ついついそんなことを疑ってしまう。
「あの……よろしければ、エルトセルクさまもウチへ来ませんか? これからアルトさまを招くところなのですが」
「そんなところに、ボクも一緒していいの?」
「もちろんですわ。アルトさまにお礼を言うだけではなくて、私、エルトセルクさまとも色々なことをお話したいです」
「それじゃあ……うん、お言葉に甘えようかな!」
「では、こちらの馬車へどうぞ。ちょうど、休憩も終わった頃でしょうし……さあ、アルトさまも」
「ああ」
妙な流れになっているが、断る理由はない。
上機嫌なユスティーナと一緒に、俺は馬車に乗った。
――――――――――
馬車に揺られ、街を移動すること少し……
高級住宅街にアレクシアの家はあった。
いや……家というか、屋敷と言うべきか?
屋敷を取り囲む高い塀は、ただ堅牢性に優れているだけではなくて、細かい細工が施されていた。
門を抜けると、豊かな緑と泉のある広大な庭が続く。
その奥に3階建ての屋敷があり、圧巻というべきか。
「おー、イシュゼルドの家って、かなり広いんだね」
俺は圧倒されているのだけど、ユスティーナはそんなことはなく、そんな呑気な感想を口にしていた。
ユスティーナは家柄が家柄なので、これほどの屋敷も、これくらいという感想になるのだろう。
その後、屋敷の中へ移動して……
アレクシアの部屋に案内された。
「……すごいな」
この部屋、俺たちの部屋の何倍だ?
それと、家具にしても調度品にしても、とんでもなく値がはりそうだ。
……真っ先に値段のことを考えてしまう俺は、生粋の庶民なのかもしれない。
「こちらをどうぞ」
メイドさんが紅茶とお菓子を用意してくれる。
本物のメイドなんて、初めて見たな……
「わーい」
ユスティーナは目をキラキラとさせて、さっそくお菓子を口に放り込んでいた。
子供か。
まあ、そういうところがユスティーナの魅力でもあるか。
「改めまして……アルトさま、以前、私のことを助けていただきありがとうございました。あの時の恩、今に至るまで、一時も忘れたことはありません。そして……感謝の言葉がここまで遅れてしまったこと、誠にもうしわけなく思います」
「わかった。アレクシアの感謝の言葉と謝罪の言葉、しっかりと受け取った」
「……あっさりなのですね」
アレクシアはちょっとだけ意外そうであり、ちょっとだけ不満そうでもあった。
「アルトさまは、私のことを怒る権利があると思いますし……また、私はアルトさまが望む恩賞に応える義務があると思っているのですが……」
「怒るなんてしないし、恩賞なんてものもいらない。俺は、当たり前のことをしただけだ」
「当たり前、と簡単に言えるアルトさまは、本当に素晴らしい方なのですね。ますます好きになってしまいました」
「こーらー! アルトはボクのものだからねっ」
ユスティーナが、俺のことを両手でぎゅうっと抱きしめる。
親猫が子猫を守るような感じだ。
一応、俺はまだ誰のものでもない。
ユスティーナの抱擁から抜け出して、紅茶を一口飲む。
「うまいな」
「おかわりもありますよ? お二人共、遠慮ならさないでくださいね」
「なら、ボクはお菓子をもっと食べたいな」
「俺は紅茶のおかわりを頼む」
「はい、かしこまりました」
アレクシアは部屋の端で待機していたメイドに目で合図を送る。
メイドは軽く頭を下げて、部屋を後に……
「アレクシアっ!」
メイドが部屋を後にしようとしたところで、ドタドタという騒々しい足音がして、部屋の扉が勢いよく開かれた。
姿を見せたのは、初老の男だ。
アレクシアに似ているところがあるから、父親だろうか?
それにしては、少々、歳が上な気もするが……
「大変だっ、アレクシア! アストハイム家のヤツがやってきた!」
『よかった』『続きが気になる』など思っていただけたら、
評価やブックマークをしていただけると、すごくうれしいです。
よろしくおねがいします!