374話 VSイヴ・その1
「あなたのことは嫌いではありませんが……おとなしくしてくれないというのなら、死んでもらいましょう」
イヴが双剣を構える。
「やれるものならやってみろ」
「では、いきます」
イヴが床を蹴り、一気に間合いをつめてきた。
正直なところ、その動きは普通だ。
極端に速いわけでもなくて、極端に遅いわけでもない。
いつもなら問題なく対処できるのだけど……
「くっ……!」
イヴは、右から左へ刈り取るように短剣を振る。
横から迫る刃をしゃがんで避けた。
ただ、すぐに左の刃が目の前に迫る。
体を傾けるようにして跳んで、転がり、不格好に二撃目を回避する。
「このっ」
端に置かれていた小さな観葉植物を手に取り、イヴに向けて投げる。
デタラメに投げただけなので、当然、避けられてしまう。
ただ、さらなる追撃を防ぐことはできたらしく、彼女は足を止めた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」
今のやりとりで、すっかり息が上がってしまっていた。
体が重い。
そして、寒い。
思うように体を動かすことができない。
まるで水の中にいるみたいだ。
「あまり動かない方がいいのではありませんか?」
「そうは、言ってられないさ……!」
「強がりを」
そう、強がりだ。
俺の体はボロボロだ。
腹部の傷もそうだけど……
展望台から落下した際、あちらこちらをぶつけた。
骨折はしていないかもしれないが、ヒビは確実に入っているだろう。
流した血の量も多い。
時折、意識が暗転してしまいそうになる。
本来なら、即治癒院送り。
絶対安静だろう。
そんな状態で戦っているのだから、無茶苦茶という以外にない。
それでも。
「引けないんだよ!」
決着を急ぐために、俺はあえて前に出た。
イヴの実力は、そこまでの脅威じゃない。
こんな状態でも、隙を狙い力を一気に爆発させればなんとかなるはずだ。
「そうくると思いましたよ」
イヴは余裕の笑みを浮かべつつ、迎撃ではなく退避を選ぶ。
後ろに跳んで、俺との距離を開けた。
そして、俺が投げて割れた観葉植物の花瓶の破片を拾う。
さきほどのお返しとばかりに、それをナイフのように投擲する。
「くっ」
体を捻り、回避……
するのだけど、変化する自重に耐えられなくて、そのまま倒れてしまう。
ダメだ。
本当に体が自由に動かない。
俺の体が俺のものじゃないみたいだ。
「くそ……はぁっ、はぁっ、はぁっ……」
「あまり動かない方がいいですよ? その傷、絶対安静でしょうから」
「そんなこと、わかっている……! だから、早く決着を……つけるんだっ」
「強情な人ですね。でも、だからこそ、その強い意思が恐ろしい。私の方が圧倒的有利なのに、あなたは、意思の力だけでそれを覆してしまいそう」
今度はゆっくりと、イヴは距離を詰めてきた。
「本当に恐ろしい相手ですね。敵ではありますが、その強さには敬意を表します」
「ありがたく、受け取っておくよ……」
「なので、私は絶対に油断しません。時間切れを狙うのではなくて、確実に勝利を得るために……今ここで、あなたを殺しましょう」
鋭い殺気を放ちつつ、イヴは左の短剣を投擲する。
その軌道は鋭く、速い。
短剣はまっすぐ飛んで、俺の額に吸い込まれるように……