367話 聖騎士の頂点に立つ者
「ガァッ!!!」
ユスティーナは怒りに燃える瞳でアリーゼを睨みつけた。
傷つけられたことで、彼女に敵視が向いたらしい。
丸太のように巨大な手を振り、薙ぎ払おうとする。
「甘い」
常人なら、なにが起きたかわからないうちに吹き飛ばされていただろう。
しかし、アリーゼはそんな攻撃を息を吸うように、当たり前に避けてみせた。
危うさは一切感じられない。
直撃する光景が誰も予想できない、安定感にあふれる動きだ。
そのままユスティーナの懐に潜り込む。
そして、両手の剣を交差させるように走らせた。
「グァッ!?」
再び鱗が突破されて、ユスティーナの体に傷が走る。
傷は浅い。
しかし、今まで誰も彼女の防御を突破することができなかった。
本気を出していなかったとはいえ、ククルの剣も鱗に弾かれていた。
それなのに、アリーゼはいとも簡単にユスティーナに傷を負わせることに成功した。
なんていう力。
そして、なんていう技量。
その場にいる生徒達は、状況を忘れて、ついついアリーゼの戦いに見入ってしまう。
「さすがに固いですね」
アリーゼはダンスを踊るようにして、ユスティーナの攻撃を連続で回避する。
かすることすらない。
ミリ単位で正確に攻撃を見切っていた。
確かにユスティーナは強い。
その力は圧倒的で、全てのものを破壊するパワーがあるだろう。
しかし、当たらなければ意味がない。
怒りに支配されて心を乱しているせいか、ユスティーナの攻撃は乱暴なものが多い。
力任せに腕を振るだけで、その動きを予測することは簡単だ。
とはいえ。
怒り狂う神竜を目の前にして、そこまで冷静に物事を考えて、落ち着いて戦えることができる者なんてそうそういない。
アリーゼの強靭な精神力がなせる技だ。
「ならば、連続で叩き込むのみ!」
アリーゼは二刀の剣を使い、嵐のような猛攻を繰り出した。
右の剣で斬り、続けて左の剣で斬る。
そして再び右へ、左へ。
その繰り返しで、終わることのない攻撃を続けた。
一撃一撃の威力は低い。
しかし、塵も積もれば山。
ユスティーナの体に傷が刻み込まれていき……
決して無視できないダメージが蓄積されていく。
「す、すごいであります……」
アリーゼの鬼神のような戦いっぷりを、ククルは呆然と眺めていた。
実のところ、ククルはアリーゼが戦うところを見たことがない。
聖騎士としては序列が一番下で、新参者になるため、機会がなかったのだ。
強いだろうと思っていた。
しかし、ここまで強いなんて予想外だ。
怒りに我を忘れているとはいえ、神竜を圧倒してしまうなんて……
そんなこと誰にも真似できない。
「こ、このままだと……ですが、自分はいったいどうすれば?」
アリーゼがユスティーナを倒してしまうかもしれない。
それはダメだ。
彼女は友達であり、どうにかして正気に戻したい。
とはいえ、暴走するユスティーナを放置するわけにはいかない。
ククルでは短時間の足止めが限界で……
今ここにアリーゼがいなければ、彼女は街に出て、破壊の限りを尽くしていただろう。
友達の命と国の未来。
その二つを天秤にかけなくてはいけない。
しかし、なんて残酷なことを求めてくるのだろう?
友達が大事だから、国を捨てる?
国が大事だから、友達を捨てる?
どちらも大事なのだから、答えなんて出せるわけがない。
「じ、自分は……」
理想と現実の間で揺れて、ククルは迷い、どうするべきか道を見失っていた。
次回の更新は、来週月曜になります。