362話 間一髪
「こ……のぉっ!」
痛む体を無視して、体を大きく揺らす。
外壁の一部に掴まっている体が振り子のように揺れて……
その勢いを乗せて飛ぶ。
ガシャアッ!
窓を突き破り、聖堂の中に戻ることができた。
ただ、勢いをつけすぎたせいか、ゴロゴロと転がってしまう。
本棚にぶつかり、ようやく止まる。
「ぐっ……はぁ、はぁ、はぁ……!」
なんとか地面に叩きつけられるのは回避できたが……
これはこれでダメージがでかい。
全身打撲したようなもので、体に力が入らない。
意識も薄れてきて……
「いやいやいや!」
ハッと我に返り、気をしっかりと保つ。
ここで意識を失ったら、そのまま死んでしまうかもしれない。
ここがどこかわからない。
テロリストと遭遇するかもしれない。
できることなら、安全地帯に避難したいが……
そんな余裕はないので、テロリストに遭遇しないことを祈るだけだ。
「まずは、傷の手当を……」
全身の打撲はどうしようもないので、気合で我慢する。
それよりも、腹部の傷だ。
シャツをまくりあげて、刺された箇所を見る。
「……コレのおかげで助かったな」
穴の空いた生徒手帳。
あらかじめこれを仕込んでおいたことで、致命傷を免れることができた。
イヴは協力的ではあったのだけど、でも、ところどころ違和感があった。
俺に協力するというよりは、監視をしているようなタイミングを伺っているような……
そんな違和感。
杞憂であってくれればと思い、各部、急所をガードする細工をした。
「本当に危なかったな……」
イヴの裏切りのせいで、危うく死ぬところだった。
いや、まあ。
今も死にかけているようなものなので、安心はできないのだけど。
「うっ……くううう」
携帯している治療セットで、傷口を消毒。
それから縫合して、最後にガーゼを貼る。
ものすごく痛い。
が、これも気合で我慢した。
ユスティーナとの稽古に比べれば、まだまだ優しい方だ。
「ふう……少し落ち着いた」
最後にポーションを飲んで、体力と気力を回復。
もちろん、完全回復というわけにはいかないのだけど、死の危機は脱したと思う。
「とはいえ、安心はできないか」
ズンッ、ズンッと何度も建物が揺れている。
その振動は上の方から伝わってきていた。
同時に、激しい戦闘音もここまで響いている。
「これは、もしかして……ユスティーナか?」
窓の外に放り出された時……
泣きそうな顔をして、絶望一色に染まったユスティーナと目が合った。
たぶん、俺が死んだと思っただろう。
そうなると、かなりまずい。
自分で言うのもなんだけど、ユスティーナは俺に大きな想いを寄せてくれている。
心の大半を預けてくれている。
でも、そんな俺が死んだとなれば?
我を忘れるくらいに激怒して、暴走してしまうだろう。
ずっと一緒にいて……
恋人になった今だからこそ、彼女の行動が予測できる。
「早く、展望台に戻らないと……!」
『面白かった』『続きが気になる』と思って頂けたなら、
ブックマークや☆評価をしていただけると、執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




