361話 ごくろうさま
「ふふ」
怒り狂うユスティーナの姿を確認した後、イヴは展望台を後にした。
全ての通路が封鎖されているように見えて、一部、通行可能な場所が残されていた。
その秘密の通路を使い、展望台のさらに上……結界の制御室へ向かう。
「おつかれさまです」
「……あなたか」
制御室に入ると、テロリストのリーダーのアシュレイがいた。
あらかじめ設置しておいた魔道具で展望台の様子を覗き見ていた。
イヴはその後ろに回り、同じく展望台の様子を見る。
「あらあら」
ここに来るまでの間に、ユスティーナはより一層激しく暴れたようだ。
展望台の内部はめちゃくちゃ。
それでユスティーナが止まることはなく、さらに暴れ続けていた。
ククルを始めとして、一部の者たちが必死に抑え込もうとしているものの、ほぼほぼ無意味。
神竜の怒りは神の怒り。
本気になったユスティーナに抗える者はいない。
「いいぞ、そのまま全てを壊してしまえ……!」
アシュレイは暗い顔でつぶやいた。
ユスティーナがなにかを破壊する度に、口元に笑みを浮かべていた。
狂気。
憎悪。
偏愛。
アシュレイは様々な黒の感情に支配されていた。
もう戻ることはできない。
彼は人ではなくて、人の皮を被った化け物に成り下がっていた。
「……い」
「うん? 今、なにか言ったか?」
イヴの小さなつぶやきを聞き逃すことなく、アシュレイは振り返った。
その顔は、心躍るステージから目を離さなくてはいけない不満がある。
そんな彼を見たイヴは……
「醜いですね」
きっぱりと言い切った。
「……なんだと?」
「今の自分の顔を見てはどうですか? 獣のように浅ましい顔をしていますよ」
「貴様……」
あからさまな侮蔑に、アシュレイは怒気を放ち腰の剣を抜いた。
それでもイヴは嘲りの言葉を止めない。
アシュレイを見下すように、冷たい目を向けて。
口元に嘲笑を浮かべる。
「己の欲望を満たすためだけにこれだけのことをして、一切の罪悪感を抱かない……私たちの理想を叶えるためとはいえ、このような下賤な者と一緒に行動しないといけないとは。やれやれ、本当に頭が痛いです」
「ずいぶんと上から見てくれるな。ならば、同じことをしている貴様は違うというのか?」
「ええ、違いますね。あなたは欲望のため。しかし、私は大義のために動いている」
全ては竜を排除するため。
そして、真の意味で人間の自立を促すため。
そのためならば、あえて悪になろう。
仮に、大罪人として処刑されたとしても……
後の歴史が、正しさを証明してくれるだろう。
イヴはそう信じていた。
それが歪んでいるものだとしても、信念を胸に抱いていた。
だから、前に進むことができる。
目的のために走り続けることができる。
そして……なんでもできる。
「ぐっ……な、なんだ、体が……?」
突然、アシュレイがよろめいた。
体から力が抜けて、そのまま倒れてしまう。
「あなたの役目は終わりました。丁寧な準備と舞台を整える役目、ありがとうございます」
「な、なんだと……?」
「私のことを知っている者がいると困るので」
「貴様、最初から……俺たちを、切り捨てる……つもりでぇっ……!!!」
「あなたも同じでしょう?」
イヴは短剣を手に取り、
「ごくろうさまでした。そして、さようなら」
その切っ先をアシュレイの頭部に突き立てた。
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