358話 この時のために
「……ぐっ!?」
腹部の傷を見て、血を見て……
そして、遅れて激痛がやってきた。
痛い、熱い、寒い。
わけのわからない感覚に襲われて、立っていることができず膝をついてしまう。
「英雄と言われていても、まだまだ若いですね。この程度の不意打ちも避けられないなんて」
「イヴさん……どうして……?」
「ふふ、すみません。私の目的のために、ここで死んでください」
イヴさんは、変わらずに優しい笑みを浮かべていた。
笑みを浮かべたまま、血に濡れた短剣を逆手に持つ。
大きく振り上げて……
そして、一気に振り下ろす。
「アルトっ!!!」
遠くでユスティーナの悲鳴が聞こえた。
こちらに駆けつけようとするが、竜の速度でも間に合わない。
それよりも先に、短剣が突き立てられるだろう。
……でも。
「こ、のぉっ!!!」
「な!?」
痛みを無視して体を動かした。
左手を床につけて体を支えつつ、跳ね上げるようにして右足で蹴る。
イヴさんの持つ短剣を弾き飛ばすことに成功する。
「まだそこまで動くことができますか……訂正します。さすが、と言うべきですね」
「なんで……くっ……こんな、ことを……」
呼吸がうまくできていないのか、とても息苦しい。
血が止まらなくて、どんどん体が重くなってきた。
これは……かなりまずいかもしれない。
「私の目的のためでもありますが……意趣返し、という意味合いの方が強いでしょうか」
「なんだって?」
「私は、あなたによって半壊させられた、リベリオンのメンバーなのですよ」
「なっ……」
あの反竜組織の?
学院を襲撃した時の戦いで数を減らして……
その後の捜査で、大半のメンバーを拘束した、と聞いているのだけど……
まさか、こんなところに残りのメンバーがいたなんて。
なら、今回の事件はリベリオンも関わっている?
「なにが、目的だ?」
倒れてしまいそうになる体を必死で支えつつ、イヴさんを……いや。
イヴを睨みつける。
「テロリストに力を貸しているな?」
「すぐそこにたどり着きますか。力だけではなくて、頭の回転も速いですね」
「認めるんだな?」
「はい」
あっさりしたものだ。
だからこそ不気味でもある。
現状、こちらが優勢だ。
この場は俺達が制圧しつつある。
表の方はわからないが、聖騎士がそこらのテロリストに遅れをとるとは思えない。
爆弾のことが唯一の気がかりだけど……
突入開始からしばらく経っても爆発していないところを見ると、無力化に成功したのかもしれない。
それは楽観視だとしても、即座の爆発はないだろう。
詰み。
そのはずなのだけど……
でも、イヴは微笑んでいた。
目的を達成することができるというように、満足そうに笑っていた。
「お前は……」
どんな過去があったのか?
どんな想いを抱えているのか?
それはわからないが、放っておくことはできない。
ここで確実に止めておかないと。
俺は痛む体にムチを打ち、前に……
「よそ見はいけませんよ?」
「なに? ……しまっ」
横からテロリストが体当たりをしかけてきて、そのまま一緒に押し出されて……
窓を割り、展望台の外に飛び出してしまう。
『面白かった』『続きが気になる』と思って頂けたなら、
ブックマークや☆評価をしていただけると、執筆の励みになります。
よろしくお願いします!