356話 第一段階、成功
「はぁあああああぁっ!!!」
空気が震えるような気合の声を飛ばしつつ、アリーゼは剣を振り下ろした。
ザンッ!
そんな音が遅れてやってきて……
そして、聖堂の入り口に築かれたバリケードを、一撃で木っ端微塵にする。
乱雑に物が積み上げられていただけではあるが、その中には椅子や机、非常用の扉などがあった。
いわば鋼鉄の塊。
そんなものを斬ることができる者は少ない。
聖騎士ならば、確かに可能ではあるが……
しかし、木っ端微塵にすることは不可能だ。
そのような力はない。
しかし、アリーゼはそれを可能としてみせた。
簡単にやってのけた。
その場にいた他の聖騎士、フィリアの国の騎士達は、揃って同じことを思う。
この人が味方で良かった。
「三分のニは、事前の打ち合わせの通り、私と共に聖堂を支える支柱へ。爆弾の解除をお願いします」
「「はっ!」」
本当に爆弾が?
リックという協力者は、実はテロリストの罠ではないか?
そう思う隊員も存在するが……
しかし、異論は挟まない。
リックという内通者のことは信じていないが、アリーゼのことは信じている。
敬愛する隊長の命令ならば、火薬を抱えて火の海に飛び込むことだってしてみせよう。
部隊が二つに分かれた。
一つは、人質を救出するために展望台へ。
もう一つは、爆弾を解除するため、聖堂を支える支柱へ。
アリーゼは爆弾の解除に向かう。
いざという時は、聖騎士を束ねる者の力が必要になるかもしれない。
そう判断しての行動だ。
リックの力になれないことはもどかしく思うが……
おそらく、彼ならばうまくやるだろう。
こちらの期待以上の成果を叩き出してくれるだろう。
不思議とそんな信頼感があった。
「隊長っ、爆弾がありました!」
悲鳴のような声が飛んできた。
アリーゼは急いで駆けつけて……
「これは……」
思わず声を失ってしまう。
聖堂を支える巨大な柱。
それを覆うようにして、あちらこちらに爆薬が設置されていた。
リックから報告を受けていたものの、甘かった。
想定以上だ。
もしも火が点けば、支柱を吹き飛ばすだけではなくて、周囲1000メートルほどの建物もまとめて砕くほどの威力があるだろう。
「た、隊長、どうしましょう……?」
「情けない顔をしてはいけません。私たちは、失敗するわけにはいかないのですよ?」
「は、はい。すみません!」
「とはいえ……これは、迂闊に手を出せませんね」
万が一でも失敗するわけにはいかない。
仮に支柱が吹き飛び、聖堂が崩壊して、結界が消えたとしても……
まだ、なんとかなる。
いざという時に備えて、結界の機能を他で補うことができる。
これはごく一部の者しか知らされていないため、テロリストが知ることはなかったのだろう。
ただ、周囲1000メートルも吹き飛ぶとしたら、最悪だ。
未曾有の被害が出てしまう。
「……解除はできそうですか?」
「時間はかかると思いますが、必ず」
「なら、すぐ作業に取りかかってください」
「はい」
部下たちの大半が爆弾の解除作業にあたる。
アリーゼは数人の部下と共に、解除作業にあたる部下の警護を担当した。
このようなところを襲われたらひとたまりもない。
「しかし……」
これでは、リックの応援に向かうことは絶望的だ。
もしかしたら、ここで足止めされることも敵の計算のうちなのか?
アリーゼは悪い予感を覚えるものの、しかし、どうすることもできず唇を噛んだ。
次回の更新は、一回、休まさせていただきます。
詳細は活動報告にて。




