353話 しまった!?
「ああ!?」
ゴロゴロと転がる中、ユスティーナがしまった、というような顔をするのが見えた。
慌ててこちらに駆け寄ってくる。
「ご、ごめんね、アルト!? ボク、すごくすごくうれしくて、なんていうか……つい」
「いや、大丈夫だ」
けっこうな距離を転がったものの、大した痛みはない。
怪我もないだろうから、気にすることじゃない。
「それよりも、ユスティーナが元気そうでよかった」
「うぅ……アルト!」
再び抱きつかれた。
ただ、今度はきちんと力加減をしているらしく、さきほどのように吹き飛ぶことはない。
心地いい重さが加わる。
それを感じつつ、彼女の頭を優しく撫でた。
「心配かけてすまない」
「ううん、大丈夫……! アルトなら絶対に無事だと思っていたから」
「でも、落ち着かなかっただろう? 不安だっただろう?」
「……うん」
「なら、やっぱり俺が悪い」
「……もう。やっぱり、アルトはアルトなんだね」
どういう意味だろう、それは?
「うん! ぎゅってしてもらえたから、アルト分、補給完了だね!」
「なんだ、その怪しい成分は……?」
「アルトの愛? 足りなくなると、まともな判断ができなくなったり、アルトの幻覚を見たりしちゃうの」
それは、危ない薬なのでは……?
たまにユスティーナの愛が重い。
まあ……それはそれで、大事に想われているという証拠なので悪い気はしない。
こんなことを考える俺は、彼女に心を奪われているのだろう。
「みんなは?」
「問題ないよ。しっかりと暴れているから」
ユスティーナが遠くを見る。
その視線を追うと……
「はっ!」
「紅の三連っ!」
ジニーは双剣を振り、アレクシアは魔法を撃つ。
二人は絶妙な連携を見せて、一人一人、着実にテロリストを打ち倒していた。
少し離れたところでは……
「あう!」
ノルンがテロリストに噛みついていた。
攻撃しているというよりは、ごはん! というような感じだ。
腹が減っているのだろうか……?
……減っているか。
ずっと拘束されていたから、なにも食べていない。
その苛立ちがあるのだろう。
「はぁあああああ!!!」
ククルは愛用の大剣を顕現させた。
聖騎士である彼女は、魔法で武器を自由自在に取り出すことが可能なのだ。
裂帛の気合と共に大剣を振り下ろす。
テロリストは防御体勢を取るが、虚しい抵抗でしかなくて、遠くまで吹き飛ばされていく。
これが聖騎士の力。
人質がいるため、迂闊に動くわけにはいかなかったが……
その問題が解決されれば、彼女を縛る枷はない。
大剣を己の手足のごとく振り回して、次々とテロリストたちを打ち砕いていく。
「よかった、心配はいらないみたいだな」
「やりすぎちゃうかも、っていう別の心配をした方がいいかもね」
「はは……」
本当にそうなりそうなので、笑うことができない。
「他の人質は……」
人質になっていたのは、俺たち学生だけじゃない。
一般の観光客もいたはずだ。
「大丈夫だよ」
ユスティーナが言うように、一般の観光客は、いくらかの学生たちによって守られていた。
さらに、奥を見ると一部の学生たちによって、簡易的な治癒室が作られている。
うん、これなら問題はなさそうだ。
「なら、俺たちも……」
「参戦しようか!」
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