347話 同時攻撃
「それは……」
アリーゼの話を聞いて、最初に思ったのは……迷いだ。
このまま様子を見て、犯人の要求を受け入れるという展開はない。
国がテロリストに屈するわけにはいかないし……
なによりも、要求を飲んだからといって人質が無事に解放されるとは限らない。
爆弾の件を考えると、無事に帰すつもりはないと考えた方がいい。
故に、手遅れになる前に突入。
テロリスト達を無力化する。
それが最善ではあるものの……
(下手をしたら、みんなが傷ついてしまうかもしれない)
今もみんなは人質として囚われたままだ。
逆上したテロリストが人質に危害を加えたら?
戦闘の際、みんなを盾にされたら?
悪い想像は尽きない。
「……でも」
ここで足踏みをしている場合じゃないか。
今できることを全力で。
「わかりました」
「ありがとうございます」
通信機の向こうで、アリーゼが笑みを浮かべたような気がした。
「爆弾のことが判明した以上、そちらを最優先にしなければなりませんが……しかし、人質を見捨てるつもりはありません。全てを同時に叩きます」
「そんなこと可能なんですか?」
「正直、難しいですが……リック。あなたがいれば、可能性はあります」
敵の懐に潜り込んでいる俺が鍵になる、ということか。
「俺はなにをすれば?」
「突入を開始したら、人質が危険に晒されるでしょう。私達の行動開始と同時に、人質の安全を確保してもらえませんか?」
「それは……」
難しい話だ。
強行突入でテロリスト達はいくらか動揺するだろうけど……
それでも、連中は破壊のプロ。
隙を突いて攻撃したとしても、どれだけの数を倒せるかどうか。
「制圧をする必要はありません。人質の中に私の部下がいると思うのですが、彼女を戦えるようにしてください」
「なるほど。まずは味方を増やして、反撃に移るというわけですね?」
それなら、ユスティーナやみんなも力になってくれるはず。
他の学生達も、たぶん、一緒に戦ってくれると思う。
武器は……この際、なくても問題はない。
戦えるように拘束を解除すればいいだろう。
「それと、突入に成功したら私もそちらへ向かいます。それで、人質の問題は解決するでしょう」
「期待しています」
「あとは、私の部下達が爆弾の解除と、残ったテロリストの掃討を行います。どちらも、それほど時間はかからないと思いますが……人質が残っていると、自由に動けません」
「人質の安全を確保できるかどうか、それが成功の鍵になるわけですね」
「はい」
責任重大だ。
緊張に手足が震えてしまいそうになる。
でも、それ以上にみんなと助けなければ、という強い使命感が湧いてくる。
大丈夫。
この意思と力があれば、やってやれないことはない。
「突入は、おおよそ3時間後。それまでに、リックはさらに情報を集めてもらえませんか? そして可能なら、突入の前にもう一度、こうして連絡を取りたいです」
「やってみます」
「他に質問は?」
「いえ、大丈夫です」
やるべきことはハッキリとした。
後は実行に移すだけだ。
「では、ご武運を」
「そちらも」
通信終了。
「……ふう」
3時間後に突入開始か。
もう一度連絡を、と言っていたから……
30分前くらいが適当だろうか?
残り2時間半。
時間は短いが、できる限りのことをやらないと。
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