340話 協力者
「誰だ!?」
慌てて振り返り、拳を構える。
鋭く睨みつけた先にいたのは……
「落ち着いてください」
「……え?」
見知らぬ女性だった。
歳は俺よりも上……二十半ばくらいだろうか?
とても綺麗な人で、完成された美しさというか……
この人が前にいたら、同性異性問わず視線を誘われてしまうだろう。
動きやすそうなドレスを身につけている。
テロリストではなさそうだけど、でも、どういう人なのかまるで予想がつかない。
「私は怪しいものではありません」
「そう言われても……」
テロリストが占拠する聖堂内で、一人、自由に動いている。
怪しくないと言われても信じることはできない。
ただ……敵意のようなものは感じない。
かといって、友好的でもない。
どことなく鋭い雰囲気で……
敵意というわけではないが、探られているような気がする。
「私の名前は、イヴ・レイネル。こちらにはちょっとした事情で立ち寄っていたのですが、事件に巻き込まれてしまい……運良く逃れることはできたものの、どうすることもできず、ここに隠れていたのです」
話の筋は通っているが……
どこか違和感を覚えてしまう。
なんだろう?
俺は、この女性のどこを怪しんでいるのだろう?
「……うん? レイネル?」
その姓は聞き覚えがある。
それは……
「もしかして、クーフェリアの関係者?」
「妹を知っているのですか?」
「ということは、あなたはク―フェリアのお姉さん……?」
「はい。腹違いにはなりますが、あの子の姉です」
なるほど。
言われてみると、どことなく面影があった。
そっくりではないが……
腹違いというのなら納得だ。
「どうして、こんなところに?」
「私は家の仕事に関わっているのですが、少し前からフィリアに滞在しているんですよ。この国ならではの栽培方法などを学び、その技術と知識を持ち帰るために。そんな時、ちょうど妹が修学旅行でこちらにやってきて……」
「顔を合わせようとして聖堂に足を運んで、そこで事件に巻き込まれた?」
「はい、その通りです」
それほどおかしな話ではないのだけど……
でも、偶然が重なりすぎていないだろうか?
と考えてしまうのは、こんな状況だからだろうか?
「あの……すみません、あなたは? 学生ということはわかるのですが……」
「あ、すみません。俺は……」
一瞬、迷う。
でも、彼女がテロリストということはないだろう。
俺を誘い出す、罠にハメるにしても手がかかりすぎだ。
「俺は、アルト・エステニアです。見ての通り、修学旅行中の学院生ですが、同じく事件に巻き込まれて……」
「あなたが、あの……」
「え、知っているんですか?」
「アルモートの民で知らない人はいませんよ。幾度となく国の危機を救う、若き英雄……あなたがそうだったんですね」
「えっと……恐縮です」
英雄とか言われるとこそばゆい。
「もしかして、この事件を解決するために……?」
「運良く、連中に捕まることなく、こうして自由に動くことができたので。みんなが人質になっている以上、迂闊なことはできませんが……それでも、なにか役に立てるんじゃないか、って」
「なるほど……よかったら、私も連れていってくれませんか?」
「え? でも……」
「こう見えて、魔法は得意ですよ?」
イヴさんは、指先に小さな火を灯してみせた。
詠唱はなし。
瞬時に魔法を使うことができるなんて、なかなかできることじゃない。
気になるところはあるものの……
でも、俺一人では手に余るし、素直に協力をお願いした方がいいだろう。
「わかりました、お願いします」
「ええ。必ず役に立ってみせますね」
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