339話 惨劇の予感
ものすごく大雑把に言うと、ここは、聖堂の上に展望台が乗り……
さらにその上に、街を守護する結界が乗せられている。
親子亀的発想な構造になっていて、建築関係者が見ると驚かずにはいられない作り……らしい。
大胆なアイディアを可能にしたのは、巨大な支柱の存在だ。
聖堂、展望台、結界……全てを貫くようにして、中央に巨大な支柱が立つ。
それが各部を絶妙な間隔で連結して、バランスを維持しているという。
……展望台で、そんな説明を聞いた。
聖堂の裏手……いくらかの扉を潜り、関係者以外立ち入り禁止の扉も抜けた先に、その支柱があった。
聖堂と同じくらいの巨大な空間に、同じく巨大な柱が立つ。
上に伸びていて、終わりは見えない。
きっと最上部まで繋がっているのだろう。
そして……
「なんだ……これは……?」
支柱を埋めるかのように、粘土のようなものがびっしりと貼りつけられていた。
ワイヤーが伸びていて……
部屋の端に並べられた魔道具に繋がっている。
とてつもなく嫌な予感を覚えつつ、粘土のようなものに顔を近づけて、匂いを嗅ぐ。
「できれば、俺の勘違いや思いすごしであってほしかったけど……」
嫌な予感は的中だ。
コレは……火薬だ。
学院の実習で何度か触れる機会があったから、他と間違えることはない。
さすがに、どんな種類の火薬が使われているのか、それはわからないが……
テロリストが持ち込んだものとなると、それなりに高性能と考えた方がいいだろう。
「で……この量か」
巨大な支柱を覆い尽くすほどの量。
こんなものに火が点けば、いくら巨大な支柱でも耐えられないだろう。
「なんてものを……」
支柱が爆破されたらどうなるか?
まず、余波で聖堂は粉々に消し飛ぶだろう。
当然、その上にある展望台も壊滅的な被害を受けるだろう。
さすがに粉々にはならないと思うが、それだけ。
支えを失い、高度から落下して地面に叩きつけられる。
中にいる人の命は絶望的。
そして、街を守護する結界が機能を失う。
魔物の侵入を許すだけじゃない。
フィリアは山岳地帯にあるため気温の変化が激しく、天候も荒れやすい。
結界を利用することで、そうした悪環境から街を守っているのだけど……
結界がなくなれば自然の猛威にさらされてしまう。
無装備で登山するようなものだ。
すぐに倒れてしまうだろう。
「これが爆発したら、下手したらフィリアが終わるぞ……」
今考えたことは、最悪のケースだ。
もしかしたら、ギリギリのところで聖堂は維持されるかもしれないし……
結界も完全に機能停止することはないかもしれない。
ただ、楽観視することはできない。
常に最悪のケースを想定して動くべきだ。
「こんなものを仕掛けるっていうことは、テロリストの目的は金や仲間の解放じゃないな……フィリアそのものが狙い? 要求はフェイクで、時間稼ぎ……こちらが本命? いや、でもそうなると、すぐに爆破しない理由が謎だな」
巻き添えはごめんなのだろうか?
ただ、自ら退路を絶っているような気がする。
そうなると、命を惜しんでいるようには思えないのだけど……
「……考えても答えは出ないか」
考えることを止めるべきじゃないが……
今は後回し。
頭の片隅に留めておいて、この爆薬をなんとかしなければ。
それと、できればテロリストに気づかれることなく、外にいるアリーゼと連絡を取り、このことを伝えたい。
強行突入が決行されて……
それを合図に爆破、なんていう事態は避けたい。
「とはいえ……これは、解除できそうにないな」
爆薬からワイヤーが伸びていて、魔道具らしきものに繋げられている。
魔道具は見たことのないタイプで、素人目ではあるが、色々なトラップが仕掛けられていそうだ。
解除を試みただけで爆発、なんてこともありえる。
素人が手を出すべきじゃない。
これはプロに任せるべきだ。
「だとしたら、俺がするべきことは外と連絡を取ること。それと……そうだな、起爆装置を探してみるか。ここに見張りがいないということは、遠隔で起爆が可能ということ。そのための装置を誰かが……おそらく、アシュレイが持っているはずだ。そいつをどうにかして奪い取り……」
カツン。
今後の方針を考えていたその時、俺以外の足音が響いた。
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