338話 真の目的は?
聖堂は遥か下。
縦一直線に伸びている通気口の中を滑り落ちていけば、一気に到着することができる。
ただ、戻るのは大変そうだから、往復は考えたくない。
「ふう……なんとか到着したか」
手足を伸ばして突っ張り、速度は制御したものの……
ほぼほぼ落ちるだけだったので、すぐに聖堂の上に移動することができた。
音を立てないように細心の注意を払っていたおかげで、誰にも気づかれていないみたいだ。
「というか……誰もいないな?」
聖堂を覗いてみるが、テロリストの姿は見当たらない。
入り口や窓にはバリケードが構築されている。
ただ物を積み重ねるだけじゃない。
魔法陣が設置されているところを見ると、結界が展開されているかもしれない。
防御は完璧、というところか。
だからなのか。
テロリストは一人も見当たらない。
通気口から見える範囲は限られているので、視覚外にいる可能性は捨てきれないのだけど……
それにしては、足音も息遣いも聞こえてこない。
気配もしない。
「防御だけ固めて、聖堂は放棄したのか……?」
外の聖騎士が突入を決意したら、ここは即座に戦場になる。
それを嫌い、テロリスト達は聖堂を放棄したのだろうか?
「ありえない話じゃないが……なにか気になるな」
放棄してもいいのなら、ここまで防御を固めるだろうか?
途中の階段も爆破していたから、二重の防御ということも考えられるが……
「気になるな」
さらに5分、通気口内に待機して、テロリストがいないか気配を探る。
結果、聖堂には誰もいないという判断に。
通気口の蓋を開けて、聖堂に降りた。
「……やはり誰もいないな」
テロリストの姿は見当たらない。
ただ、至る場所に魔法のトラップが設置されていた。
範囲内に立ち入ると爆発、炎上する魔法陣。
侵入者の探知を知らせる魔法陣。
防御網は、やはり完璧だ。
侵入者を絶対に阻止する、というものではないが……
これを突破するとなると、なかなかに厳しいだろう。
普通に考えて他の突入口を探した方が早く、そして安全だ。
「だからこそ、ここには大事なものが隠されている……?」
ふと、そんなことを閃いた。
ただの思いつきだけど……
でも、間違っていないかもしれない。
「調べてみるか」
ここが重要な場所なら、いつテロリストが戻ってきてもおかしくない。
それでも、危険を犯すだけの価値はあると判断して、聖堂内を探索する。
当たり前だけど、聖堂内は静かなものだ。
俺の足音が聞こえるだけで、他にはなにも響かない。
内部が荒らされていることもない。
並べられた椅子はそのまま。
綺麗なステンドグラスも傷一つつけられていない。
テロリストは、フィリアの神に疑いを持つ連中じゃないのか?
それなのに、その神のための聖堂をまったく荒らさないなんてこと、ありえるのだろうか?
「なんか……色々と怪しくなってきたな」
交渉を横から聞いた限り、テロリストの目的は金と仲間の釈放だ。
普通に考えるのなら、その二つの目的を達成した後、さらなるテロを企むと思うのだけど……
「金を集め、仲間を釈放させる……そのためのテロ? いや、なにか違和感が……」
魚の小骨が喉に引っかかったかのように、落ち着かない。
なにかが気になるものの、それを具体的な言葉にすることができない。
すごくもどかしい。
「金と仲間の釈放はフェイク……やはり、本当の目的は別にある?」
そんなことをつぶやきつつ、聖堂内を探索して……
そして、俺はソレを見つけた。
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