337話 我慢我慢
「……」
ユスティーナがテロリストを睨みつける。
テロリスト達は、その眼圧に押されるかのようにビクリと震えた。
通気口に隠れている俺もビクリと震えた。
まずい。
今ここでユスティーナが暴れたら、色々とおしまいだ。
彼女なら、問題なくテロリストを制圧できるだろうが……
しかし、絶対に犠牲が出てしまう。
圧倒的な力を持っていても、守るということに関しては向いていないのだ。
ただ……
「やってしまえ、という気持ちもあるんだよな……」
というか、俺が飛び出してしまいそうになった。
あの男。
俺の世界で一番大事な人に傷をつけるとは。
許せることじゃない。
人質がいなければ、今すぐに飛び出して、力いっぱい殴り飛ばしていたところだ。
ただ、さすがにそれは許されないことで……
ユスティーナはどうするつもりだ?
「……ふう」
ユスティーナは、しばらくの間、テロリストを睨みつけていたが……
ややあって、小さな吐息と共に視線を逸らした。
ソファーを再び担いで、運ぶ。
テロリストのことは、もう気にしていないみたいだ。
よかった……
大乱闘が勃発しないことも安心したのだけど。
戦闘になり、ユスティーナが怪我をすることがないことに、なによりも安心した。
彼女は神竜で、ここにいる誰よりも強い。
でも、俺にとっては大事な恋人で、かわいい女の子だ。
どうしても心配してしまう。
「エルトセルクさん、大丈夫!?」
「すぐに治療します、じっとしていてください」
「ったく……連中、ひでえことするぜ」
ユスティーナに駆け寄るジニーとアレクシアが見えた。
視界に映らないものの、グラン達の声も聞こえる。
みんなユスティーナのことを心配しているらしく、ちょっと慌てた様子だ。
「もう、みんな大げさだなあ。これくらいかすり傷だから、心配することないよ」
「女性の顔に傷をつけるなんて、許せないのであります!」
「そうそう、ククルの言う通りよ!」
「あうー!」
「って、エルトセルクちゃんが!?」
「だ、誰か止めてくれ!」
「おい、お前らも手を貸せ!」
ユスティーナではなくて、ノルンが暴走しそうになっているようだ。
周囲の生徒達が慌てているのが見える。
気持ちはわからないでもないが、無茶はしないでほしい。
「さて……」
無事と言っていいのか。
そこは微妙なのだけど……
ひとまず、みんなの安全は確認した。
俺は、俺にできることをやろう。
音を立てないように注意しつつ、通気口を移動。
人気のない部屋に降りて、地図を確認する。
「色々なところに繋がっているんだな」
展望台だけじゃなくて、聖堂、職員用の宿舎、休憩室、医務室……ありとあらゆる場所に通気口が伸びていた。
これなら、かなり自由に動くことができそうだ。
「さて、どうしたものか……」
敵の目的を再確認しておきたいのだけど、どこに行けば情報を掴むことができる?
手っ取り早く情報を得るには、テロリストを一人拘束して、尋問することなのだけど……
双方に釘を刺されているので、さすがにそれはやめておいた方がいいだろう。
「となると、自力で探すしかないか」
まずは、テロリストのリーダー……アシュレイを探そう。
全体に指示を出すことができて、なおかつ、いざという時、砦として機能する場所は?
「……聖堂を当たってみるか」
地図を確認した後、俺は再び通気口に潜り込んだ。
なんか、ネズミになったような気分だ。
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