336話 人質の要求
「っ……な、なんだ!?」
テロリストがビクリと震えつつ、武器を構えた。
ユスティーナの正体を知っているからこそ、警戒しているのだろう。
「ちょっとお願いがあるんだけど」
「お願い……だと?」
「解放してくれとか、そういうことじゃないから大丈夫だよ。だから、怯えなくていいよ」
「くっ……」
図星を突かれたらしく、テロリストが苦い顔に。
ただ、感情に任せてユスティーナに手を上げるようなことはしない。
規律が守られているというよりは、万が一、反撃を受けたらどうしようもない、ということを理解しているのだろう。
ただ、感情が暴走したらどうなるか……
ユスティーナは、危ない真似をして、いったいなにをしようとしているんだ?
「トイレに行きたい人とか出てくると思うんだけど、その時は許可をくれない?」
「あ、ああ……そういうことか。隊長に話を通す必要はあるが、おそらく問題ないだろう。ただ、人数は制限させてもらう。監視もつける」
「うん、それでいいよ」
慎ましい要求に、テロリストはあからさまにホッとした顔になる。
ユスティーナが暴れ出さないか、不安だったのだろう。
ただ、いくらなんでも彼女はそんなことはしない。
みんなが人質に取られている中、無茶なことは……しないよな?
「あと、もう一つお願いがあるんだけど」
「……まだあるのか?」
「こんな状況だから、体調を崩しちゃう人が出てくると思うだ。というか、すでにちょっと顔色悪い人がちらほらといるし」
ユスティーナの軽い嫌味に、テロリストは再び苦い顔に。
「だから、休むために向こうにあるソファーとか持ってきていい?」
「……少し待て」
テロリストは通信用の魔道具を起動して、それに声をかける。
おそらく、アシュレイと連絡を取っているのだろう。
……そういえば、アシュレイの姿が見当たらないな?
視界の範囲内にいないだけ、ということはないだろう。
であれば、魔道具を使う必要はないし……
ヤツはどこへ?
「……隊長の許可が降りた。好きにしろ」
「うん。じゃあ、さっそく移動させてもらうね」
ユスティーナは気軽な様子でソファーの前に移動して、持ち上げる。
同い年の女の子が、自分の体よりも大きなソファーを軽々と持ち上げる光景は違和感しかないのだけど……
ただ、ユスティーナは竜なので、彼女からしたらなんてことはないのだろう。
なにかしないだろうか?
テロリスト達はユスティーナを警戒して、彼女を囲む。
そんなテロリスト達を気にすることなく、ユスティーナはソファーを運ぶ。
サイズの問題で一度で運ぶことはできず、往復するのだけど……
「あっ」
最後のソファーを運ぶところで手元が狂ったらしく、ユスティーナはソファーを落としてしまう。
ドンッ! という大きな音が響いて、テロリスト達がビクリと震えた。
「貴様っ、なにをしている!?」
「おい、ま……」
最初に声をかけられたテロリストが激高した。
仲間が止めるようとするが間に合わず、ユスティーナを短剣で斬りつけてしまう。
「っ……!」
刃がユスティーナを貫くことはない。
むしろ、彼女に負けるかのように折れて、砕けた。
ただ……
「……痛いなあ」
わずかに、ユスティーナを傷つけることに成功してしまう。
彼女の白い肌が小さく切れて、こめかみの辺りから血が流れる。
当たり前のことだけど、ユスティーナは不機嫌そうな顔をする。
こんな状況下だとしても、彼女が怯むことはない。
相手がテロリストだとしても、傷つけられれば苛立つ。
だからこそ。
「「「くっ……!?」」」
ユスティーナの怒りを察したテロリスト達は、一斉に武器を構えた。
一触即発。
わずかなミスから戦闘が開始されようとしていた。
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