332話 しぶとい
「ぐっ、が……!?」
顎を砕かれながらも、男はまだ意識を保っていた。
そして、戦意も保っていた。
さすがというべきだろう。
テロリストなんてやっているが、男は一流の戦士だ。
よろめきつつも、追撃を避けるため俺と距離を取る。
そして、腰のポーチからポーションを取り出して、それを飲んで回復を……
「させるか!」
体を捻り、回し蹴り。
ポーションを弾き飛ばす。
男は忌々しそうにこちらを睨みつけながら、短剣を突き出してきた。
回復よりも、俺の始末を優先するべきと考えたのだろう。
ただ、顎を砕かれているせいでその動きは鈍い。
体を斜めに。
短剣を余裕をもって回避する。
それと同時に男の体に組み付いて、足を絡め、床に押し倒す。
「がっ!?」
男は頭部を床にぶつけ、たまらずに悲鳴をあげた。
ただ、それでもまだ意識が残っている。
しぶとい。
「悪いが、テロリスト相手に手加減はしない。できない」
「貴様、ガキが……!」
「眠れ」
床で挟み込むようにして、男の顔面に拳を叩き落とした。
ガッ! という鈍い音。
その衝撃に耐えることができず、男は今度こそ気絶した。
「さてと……」
まずは、男を拘束する。
幸いにも男が拘束用のテープを持っていたため、それを使わせてもらう。
それから、さきほど弾き飛ばしたポーションを拾い、男に無理矢理飲ませた。
相手はテロリストだけど……
でも、無力化した以上、死ぬかもしれない怪我を放置するのはどうかと思う。
戦闘の最中は手は抜けないし、殺す覚悟を持って全力で挑むが……
そうでない時は、捕虜としてきちんと扱うべきだ。
「とはいえ、このまま放っておいたら仲間に回収されるよな」
少し考えて、
「悪いな、ここでじっとしててくれ」
膝を抱えるように座らせて、その状態をキープするように拘束。
さらに、口もテープで塞ぐ。
その状態で、倉庫の奥にある大きなボックスに放り込んでおいた。
念入りに調べられない限り、見つかることはないだろう。
「なにはともあれ、魔道具を手に入れることができたな」
アルモート製ではなくて、フィリア製だ。
そのため、いまいち操作方法がわからない。
とはいえ、これが生命線と言っても過言じゃない。
じっくりと時間をかけて、あちらこちらをいじり、操作方法を独自で学んでいく。
「……なるほど」
10分ほど調べたところで、ある程度の操作方法を理解した。
これで外と連絡を取ることができる。
ただ、大きな問題があって……
「これを使うと、テロリスト側にも会話が筒抜けになるんだよな」
あらかじめ登録されたグループ全体に会話が届くような設定になっていた。
そして、その設定を解除することは難しい。
外と連絡を取らなければいけない。
しかし、会話をテロリストたちにも聞かれてしまう。
どうするべきか?
リスクとリターンを天秤にかけて……
「……よし」
外と連絡をとることを決めて、俺は魔道具のスイッチを入れた。
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