330話 外部と連絡を
「ふう……」
通気口から抜け出した俺は、吐息をこぼした。
「心臓に悪いな……」
うまく展望台へ移動できて、ユスティーナやみんなを見つけることができた。
それはよかったのだけど……
「まさか、テロリストにケンカを売るような真似をするなんて」
普通なら、おとなしくするのだろうが……
でも、そうか。
ユスティーナの場合、その普通が適用されないか。
竜ということもあるが、それ以前に、彼女はそういう性格だ。
まっすぐなことを好み、歪んでいるものは許さない。
みんながいるから、さすがにおとなしくしているものの、もしも一人だったら、聖堂に被害が出ようと構うことなく問答無用でテロリストを殲滅していただろう。
彼女らしいといえばらしいのだけど……
見ている方はハラハラする。
場合によっては、飛び出して加勢することも考えた。
「まあ、そんなことにならなくて済んだが」
さすがのユスティーナも、みんなが人質にとられている中では自由に動けないのだろう。
「ひとまず、犯人は今すぐにみんなを……ユスティーナをどうこうするつもりはなさそうだ。あと、情報を得られたのは大きいな」
犯人の人数、武装、特徴……ありったけの情報を頭にインプットしておいた。
「この情報を、どうにかして外に伝えたいな」
俺が今いる場所は、展望台の裏にある倉庫だ。
そこには小さな窓が設置されていて、外の様子を確認することができた。
すでに騎士団が出動していて、聖堂の周りをぐるりと囲んでいる。
聖騎士らしき人物も複数人見えた。
ただ、人質がいるため、今のところ包囲網を敷くだけにしているようだ。
しかし、その陣は鉄壁。
ネズミ一匹逃すことのない完璧な包囲網だ。
なおかつ、いつでも突入できるように準備を整えている。
さすがというか……
フィリアの騎士の練度は相当なものだな。
過酷な環境で生き抜いてきたことで、その力が限界まで研ぎ澄まされてきたのだろう。
テロリストを制圧するには、彼らの協力は必須だ。
そして、内部で唯一自由に動くことができる俺の存在は貴重なはず。
どうにかして連絡を取りたいのだけど……
「魔道具でもないか?」
倉庫を調べてみることにした。
色々なものが保管されているようだから、もしかしたら、通信用の魔道具があるかもしれない。
「それにしても、けっこう広い倉庫だな……」
倉庫内に、さらに階段が設置されていて上下に伸びていた。
3階建ての倉庫というのは、なかなか珍しい。
場所が場所だから、色々なものが必要とされているのだろうか?
「この階は、主に非常食だな」
ここはいざという時の避難所も兼ねているのだろう。
大量の非常食と水が保管されていた。
その他、日用品も見られる。
「上の階に移動してみるか」
この階に魔道具はないだろうと判断して、階段を登る。
上層の倉庫はやや狭い。
それでも色々なものが保管できるほどの広さはあり、この中から目的の魔道具を探し出すのは骨が折れそうだ。
「とはいえ、泣き言なんて言ってられないな」
まずは上層の倉庫にある品物を確認する。
「いざという時のマニュアルに、防災グッズ……それと組み立て式のベッドや、パーテーションもあるな」
上層の倉庫も、いざという時のための物資が置かれていた。
ただ、ここは期待できるかもしれない。
災害時は各方面と連絡を取らなければいけない。
そのための魔道具がここに保管されている可能性は高い。
「まずは、ここの棚から……」
カンカンカン。
階段を登る足音が聞こえてきた。
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