328話 なかなかにまずい
「……っ!」
ユスティーナは悔しそうな顔をして、軽く唇を噛んだ。
油断した。
まさか、こんなところでテロリストの襲撃を受けてしまうなんて。
もっと警戒をしていれば、事前に彼らの悪意を感知することができたかもしれない。
しかし、旅行に夢中になっていたせいで疎かになってしまった。
それが悔やまれる。
しかし、敵も見事と言わざるをえない。
素早い行動で聖堂を制圧。
聖堂に繋がる道を全て爆破して、バリケードを築いてしまう。
その上で他の生徒達を人質に取り、ユスティーナの行動を封じる。
ほぼほぼ完璧な作戦だった。
おそらく、全て計画通りなのだろう。
ここまで綿密な計画を立てられたら、もうどうしようもない。
いくら神竜といえど、どうすることもできなかった。
「隊長、Aブロック、制圧を完了しました」
「同じく、Bブロック制圧完了」
「Cブロックも完了です」
「よし、引き続き状況の確認を急げ。計画に支障をきたすような事態が起きた場合、そちらを最優先に報告しろ」
「「はっ!」」
背の高い男があれこれと指示を飛ばしていた。
彼がテロリストのリーダーか?
なら、彼を叩けばなんとかなる?
「……いやいやいや」
ユスティーナは短気を起こしそうな自分に気がついて、すぐに考え直した。
とんでもない力を持っていて、制圧するのが遅れたら?
リーダーを相手にする間に、仲間が生徒たちに刃を向けたら?
勝てない可能性がないわけではない。
むしろ、制圧できる確率の方が高い。
しかし、失敗したら必ず犠牲が出る。
成功しても、多少は犠牲が出てしまいそうだ。
他人の命が賭け金になっている以上、迂闊に動くことはできない。
「さて……見ての通り、我々はテロリストだ」
制圧が完全に終了したところで、リーダーの男が生徒たちに呼びかけた。
「目的を話すことはできないが、基本的に、キミたちに危害を加えるつもりはない。我々の邪魔をしないのならば、目的を達成した後、旅行の続きを楽しむことができる」
「しかし」と間を挟み、リーダーの男は鋭い眼光を飛ばす。
「我々の邪魔をするというのならば、容赦はしない。迷うことなく刃を向けるし、時に命も奪おう」
本気を感じられる冷たい声に、いくらかの生徒が震えた。
ただ、気丈に睨み返す者も多い。
学生ではあるが、竜騎士見習いでもある。
国に剣を捧げる者として、テロリストなんかに屈することはない。
刺し違えたとしても倒す。
そんな覚悟を持つ生徒は多い。
(うーん、まずいかも)
生徒たちの覚悟を察したユスティーナは、困った顔に。
このままだと、下手したら生徒たちは犠牲を覚悟で突撃してしまうだろう。
それはダメだ。
確実に犠牲が出る。
そんなことはアルトは望まない。
(そのアルトは見かけないんだけど……ううん、今はこっちをなんとかしないと)
少し考えて……
ユスティーナは一歩、前に出た。
「おとなしくしていたとして、それでボクたちに危害を加えないっていう保証はあるの?」
「お前は、もしかして……」
「ボクのことを知っているんだ? うん。ボクは、ユスティーナ・エルトセルク。神竜バハムートだよ」
あえて名乗りをあげた。
相当に目立つし、下手をしたらうまいこと利用されてしまうだろう。
しかし、竜であるユスティーナが過激な行動を取らないことで、他の生徒たちの目を覚ますことができる。
あのユスティーナがおとなしくしているのなら、自分たちもそうした方がいいのでは……?
そう考えさせるための行動だった。
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