33話 かくして全ての悪意は消え去る
「ぐっ……」
かすかなうめき声が聞こえた。
その方向を見ると、黒いローブの男がしぶとく生き残っていた。
ただ、その体はボロボロで瀕死の状態だ。
例え、今から最先端の治療をしたとしても助かることはないだろう。
「現実が見えない、愚か者共め……竜は敵だ……なぜ、そのことに気がつかない……」
この期に及んで男は竜に対する呪詛を漏らしていた。
それに対して、俺は毅然と立ち向かう。
「違う」
「なに……?」
「竜は共に歩む隣人であり、友だ。お前の言っていること、やっていることは、アイツが気に入らないから排除しようという、ただのワガママだ。ジャスと変わらない、いじめっ子だよ」
「そんなことが、あるものか……私は、国を奪われて……」
「だとしても、竜だけに罪があるわけじゃないだろう。人にも罪がある。それなのに、竜だけを恨む時点で、無茶苦茶なんだよ」
「……」
「俺は竜を、友を信じる。それが俺の答えだ」
「……ふん」
男はふてくされたように鼻を鳴らして……
そこで限界が訪れたらしく、体が塵となって、今度こそ完全に消滅した。
最後になにを思ったのか、それはわからない。
「アルト」
振り返ると、優しい顔をしたユスティーナが。
「おつかれさま」
「ああ。ユスティーナも」
互いに笑い……
今は、無事に事件が解決したことを喜ぶのだった。
――――――――――
大きな騒動に発展しないように事件を解決したつもりではあったが……
あれだけの大乱闘を繰り広げておいて、街の人ならともかく、国をごまかすことはさすがに無理だったみたいだ。
ほどなくして、騎士団と竜騎士が派遣されてきた。
幸いというか、こちらにはユスティーナがいる。
彼女が表に立ち説明してくれたことで、妙な疑いを持たれることはなく、事件の引き渡しはスムーズに行われた。
カルト集団は、全員、残らず逮捕された。
そこで得た情報から、街中に潜む残党も全て捕まり……事件は完全に解決された。
……数日後。
俺たちは事件を解決した功労者ということで、王の目に止まり、謁見が行われることになった。
恐れ多いと思うのだけど、個人の感情で止められるわけもなくて……
俺たちなりの正装……学院の制服に身を包み、王城へ移動した。
「面を上げよ」
王の言葉で、膝をついて頭を下げていた俺たちは顔を上げた。
ちなみに、ユスティーナも俺たちと同じようにしている。
さすがに竜の王女とはいえ、一国の王を相手に不遜な態度をとるわけにはいかない。
まあ、どちらかというと、力関係は竜の方が上なので……
王の側近たちは、ユスティーナに膝をつかせていることを、ハラハラしている様子ではあったが。
「事件の顛末、騎士たちより聞いている。グラン・ステイル。ジニー・ステイル。アルト・エステニア。そして、竜の姫エルトセルク殿。此度の活躍、見事であった」
「はっ」
再び頭を下げる。
まさか、王から直接こんな言葉をいただけるなんて……
俺は夢でも見ているのだろうか?
ついついそんなことを考えてしまう。
「今回の事件、もしも放置されていたのなら、大きな災厄となっていたかもしれぬ。竜を排斥しようとする他国の動き……今後、より一層、気をつけなければならないな。そなたたちも力を貸してくれるとうれしい」
「はっ」
王に言われなくても、竜と共に歩む決意に変わりない。
ユスティーナがいるからというのもあるが……
正規の竜騎士を目指す志は変わっていない。
「さて……此度の活躍に報いるために、そなたらに報奨を授けよう。グラン・ステイル。並びに、ジニー・ステイル」
「「はっ」」
二人が一歩、前に出る。
「そなたらのおかげで、カルト集団のアジトを突き止めることができたと聞いている。また、その後の戦いも見事であった。よって、ここに緑竜章を授けるものとする」
驚いた。
二人揃って、勲章を授かるなんて。
グランとジニーに勲章が授けられて、王が拍手をする。
つられて他の人々も拍手をした。
もちろん、俺とユスティーナも笑顔と拍手でお祝いをした。
「では、次にアルト・エステニア」
「はっ」
二人が下がり、今度は俺が前に出る。
「カルト集団が我が国に関わっていることを、そなたが突き止めたと聞いている。また、その戦いにおいて決死の突撃をして、エルトセルク殿の最大の援護をしたという。その勇気、洞察力、誠に見事なり。よって、ここに金竜章を授けるものとする」
王の言葉に、周囲の人々が「おぉ!」とどよめいた。
危うく、俺も、王の前なのに驚きの声をあげることだった。
さきほど、グランとジニーが授かった緑竜章というものは、もちろん栄誉であることに間違いはないのだけど、持っている人はそこそこ多い。
大きな貢献を果たした者に贈られる勲章だ。
長い間、騎士を……あるいは竜騎士を務めていれば、半数くらいの人は授かることができると言われている。
対する金竜章は、逆に授かる者はほとんどいない。
英雄と呼ばれるにふさわしい行いをした者に与えられる勲章なのだ。
金竜章を持つ者は、それこそ、国の英雄として扱われるだろう。
「驚いているようだな?」
「はっ……その……はい」
王の問いかけに、俺は素直に頷いた。
「此度のそなたの活躍は、金竜章にふさわしいと判断した。そなたがいなければカルト集団の暗躍を許し……最悪、竜との融和が断たれていたかもしれない。それは、国が滅びることを意味する。そう考えると、そなたはこの国を救ったことになるのだよ。しかも、その歳で。これはもう、英雄と呼ぶしかないだろう」
「……光栄です」
正直、身に余るものだと思うが……
ただ、王の報奨を断るわけにはいかない。
それに、他の人々も笑顔で頷いて賛成しているし……
ちらりと見れば、ユスティーナは当然だよ、というような感じの顔をしているし……
もう完全に断れる雰囲気じゃない。
「謹んでお受けいたします」
「うむ」
王から直接、金竜章を授かる。
「今ここに、若き英雄が誕生した! その名は、アルト・エステニア! 皆の者、若き英雄を称賛せよ」
盛大な拍手に包まれて……
俺はただ、ひたすらに恐縮するのだった。
「やったな、アルト」
「おめでとう、アルト君」
グランとジニーが拍手をしてくれた。
「アルトっ、おめでとう! ボクもうれしいよ」
ユスティーナもうれしそうにしてくれていて……
三人からの言葉は素直にうれしくて、その感情を、そっと胸に刻み込むのだった。
これからも、もっと精進していこう。
前を向いて、ひたすらに歩き続けていこう。
そして……
いつか、金竜章にふさわしい人になろう。
……真の英雄に。
そう決意して、夢を胸に抱いて……皆に向けて頭を下げるのだった。
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