326話 二度はごめん
カンカンカン、と階段を降りる音が近づいてきた。
下からも階段を登る音が近づいてきた。
幸いというべきか、そのペースはゆっくりだ。
おそらく、見落としがないように念入りに探りを入れているのだろう。
俺は……
――――――――――
「誰だ!?」
「待て待て、俺だ」
「なんだ、お前か……お前が上から来たということは、階段のチェックは終わりでいいんだよな?」
「ああ。その様子だと、特に誰も見かけなかったんだろう?」
「問題ない。この階段には誰もいなかった」
「よし。なら、ここは終わりだ。俺たちも展望台へ戻ろう」
「了解だ」
階段を上がる音。
それらが遠ざかり……
男たちの気配も完全に消えたところで、俺は階段に戻った。
「はぁっ、はぁっ……これ、二度は絶対にやりたくないな」
どこに隠れていたのか?
答えは……階段の手摺の向こうだ。
転落防止のため、階段の手摺は高く設計されていた。
展望台についてから景色を楽しんでほしいという理由から、不透明の板が設置されている。
その向こうにある小さな突起にぶら下がり、男たちをやり過ごした、というわけだ。
当たり前だけど、落ちたらおしまいだ。
懸垂をする要領で、なんとか耐えていたものの……
本当に落ちなくてよかった。
「とはいえ、これからどうしたものか」
なんとか見つからずに済んだものの、それだけ。
おそらく、みんなを含めて生徒たちは人質にとられてしまった。
敵の数は不明だけど、相当な数がいるはず。
こんな状況では、フィリアの騎士団や憲兵隊も迂闊に突入はできない。
かなりの長期戦になるだろう。
「そんな状況を打破できるとしたら……俺、だよな」
自惚れかもしれないが、俺はジョーカーになりえる存在だ。
敵地で唯一、自由に動くことができる。
内部から撹乱。
テロリストに攻撃を加えていけば、あるいは……
「……やるしかないか」
勝算は限りなく低いだろう。
でも、そんな戦いは何度も経験してきた。
今更恐れることはない。
やれることをやる。
それだけだ。
「そうなると……まずは、敵の情報を集めるか」
テロリストの目的は?
数は?
武装は?
それらを確かめないことには動きようがない。
ひとまず、できる限り展望台に近づいてみることにしよう。
そう決めて、音を立てないようにゆっくりと階段を登る。
もどかしくなるが、ここで敵に見つかるわけにはいかない。
慎重に慎重に登り……
しかし、途中で轟音が響いた。
「なっ!?」
地震が起きたかのように足元が揺れる。
パラパラと建物の破片が落ちてきた。
慌てて上を見ると、階段の先が煙に包まれている。
「まさか……外からの突入を防ぐために、階段を爆破したのか!?」
なんて連中だ。
ここまで無茶をするなんて、かなりの覚悟と力がないとできない。
厄介極まりない相手だ。
これから先に待ち受けているであろう困難を考えて、俺は冷や汗を流した。
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